母は片手に持っていた酒を上にあげてから、ボトルごと口元にやり、ゴクゴクと喉に入れて飲み干していた。俺の生活の一部が、これだ。
 俺はフライパンを持ちながら、頭の中に彼女の姿を蘇らせ微笑してから真顔になった。
 これが俺の生活で何も変わり映えのない。理想は理想な生活に過ぎない。
 その理想こそが彼女の存在なのかもしれない。俺はその理想と現実の狭間の中で生きてる。
 理想と現実のギャップを埋めるのは、現実を見て生きるしかない。理想は理想なのだから。
 彼女の存在は……。俺には光そのもの…
 分かってはいるのに、俺は何を望んでいるのだろう。
 台所の蛇口から静かな低音な響きで、ポツポツとゆっくり水が垂れていた。
 音さえも俺にとっては耳障りなオトに聞こえていた。