私は笑ってる彼の顔を見て彼の方へ指をさし、ないでしょ? と空を見上げながら聞いた。
「……こっち向いて」
「うん?」
 私は右側にいた工藤の方に向き直すと、工藤の顔が近かった。
 その近さに驚き、目を見開いた。
「今宮さんがいるからだよ。こうやって笑えるのはあなたがいるから」
 私の表情に笑いながら、彼は私に言う。
「…いや、なんで私?」
 私は工藤の顔から少し離してから、目をオドオドさせて彼に聞く。
「あなただから。今はそれしか言えない」
 彼は私の目から離さずに力強く透き通る声で私に言い放つ。
 なぜ、私がいることで笑えるのか。もしかして、工藤と会ったことある? とか?
 いや、それはない。だけど確信をもって、あなただからと言えるのかが不思議でならない。
「……そう」
 私は彼に言うと、私の髪を触って撫でてきた。彼はニヤッと笑っていた。
「なんなのよ!!」
 私は再び目を見開いて、さっきより強めの口調で彼に伝える。
「いや、ただ草がついてただけ。ほら」
 彼は自分の指に草を持って見せてきた。私の髪についていた草を取ってくれたようだ。
「…ありがとう。ほら、もう行くよ」
 私は立ち上がり、工藤にも立ちがるように急かす。
「…あっ、ちょっと待ってよ、今宮さん」
 彼は不貞腐れた私をニヤニヤと笑って言っていた。
 私は彼を無視して、ダンダンと足を踏みつけて歩く。
「もう知らない」
 工藤のことなんて知らない。だけど、私は微笑んでいた。
 なぜ彼が私の隣だと、彼は笑っていられるのかは分からないが、今は現在の彼を
見ていきたいと考えている私がいた。
 なんでかは分からないが、そう思っている自分に驚いた。
「先に行って、どこいこうとしたんだよ」
 彼は起き上がってから私の所まで駆け足で歩み寄ってきた。
 嬉しそうに私の所に来た彼は、沈み込んでいたものがどこかに消えていた。