私たちは何分間この状態でいた。彼は両足で芝生がズボンにつかないように、浮かせて座ってから立ってを繰り返していた。
 その姿を私は見ているだけだった。私は意を決して、彼の手を掴んだ。
「なにしてるんだよ」
 彼は言葉で私に言い返していたが、私の手を離そうとしなかった。
「いいから行くから」
 私は彼の手を掴んで、強引に連れて行こうとするが、彼は拒否した。
「どこに」
 工藤は嫌そうな表情をして、私に言い放つ。
「分からないけど、行くの! どこかに。行こう」
 そんな彼を私は無視して、彼の手を引いて、いつもより高めの声で言い、走った。
 どこかへ………。どこに行くのかなんて関係なかった。
 ただ、忘れたかった。辛いことから…
 頭の片隅に置いて、明るい場所へと行きたかったのだ。何もかも全てのことから…
 どこまで道は続いているのか、彼の手を強く握って、走った。
 信号機が赤になると、二人とも黙ったまま止まった。
 私が青になるのが分からなかった時は、彼が私の手を握りしめて、また走り始めた。
 どこまで走り続けたのだろう。私達が立ち止まったのは、真っ直ぐな道があり、左右には寝転ぶことが出来そうな斜めに草が生えていて、その近くには川があった。
 私はその光景を眺めていたが、隣にいた彼はいなく、どこに行ったのか見渡すと、草の所で寝転がっていた。
「気持ちいい?」
 私は彼に聞くと、川辺で遊んでいる子供達を見ていた。
 子供達は楽しそうにサッカーをしていて、サッカーボールで蹴って笑いあっていた。
「…いいな」
 彼は独り言のように呟いていた。
「あの子たち見て羨ましいの?」
 私は彼を見て聞いた。彼は子供達のサッカーしている姿をボッーと見つめて微笑んでいた。
「ああ、羨ましいよ。何も考えていないあの頃に戻りたいなって」