「ああ、そう。九月あたりにあいつに言われて、もう教室なんていられなくなって、そこから休んだ。誰とも連絡取らずにただ単にさまよってたんだ。ここに誰もいなかった」
 工藤は自分の胸を人差し指でさして、何もない芝生を歩いた。
 彼の中には、家族も友人も頼れる人はいなかった。
 どうすればいいかさえ分からなくて、彼の中でさまよっていたんだ。
 彼の苦しみが人に知られたくないのか、アイスクリームが入っていた袋を右手で持って、まばたきをしながら自分の靴を眺めたり、自分の心のバランスを取ろうと顔を上げて私に話し始めた。
「…六弥くんは?」
 私はそのままマンホール管の所に座り、歩き回る工藤を見て聞く。
「心配かけたくなかったし。俺があいつに言われたのは初めて今日聞いたと思う」
 工藤は芝生の中をぐるぐると左右に歩き回っていた。
 私が声を発した瞬間、顔を上げて私を一瞬見てから前を向き直して歩きながら答えていた。
「六弥くんならすぐ駆けつけてくれたのに」
 私はそう答えると、彼は歩くのをやめた。
「……そうだと思うけど、六弥はこの学校に来るために頑張ってたから…俺だけ我慢すればいいと思ったんだ。だけど……」
 彼はそう言いかけてから、私の方向に向かって、歩き出してきた。
 なんだ、なんだ。私は彼の言動を見ていたら、いつの間にか目の前に彼がいた。
「な、なに?」
 工藤は私と目を合わせて、じっーと私を見てきた。そんな彼に私は戸惑う。
「……だけど、いや…なんでもない」
 彼は私を見た後に、目を逸らして、だからの次は言葉に出さなかった。
 その後はさっき歩いていた芝生で立ち尽くしていた。
「…なんだったの…」
 私はその言動が理解できなく、口を開けたまま立ち尽くしていた彼を見て声を発していた。