兄貴は荷物をまとめて、ケースを片手に持ち、じゃあな、父さんのところに行くからと言い放って、出て行った。それから、彼は変わっていた。翌日、彼は学校に行くと、何かも嫌になったみたいに制服は汚れていて、顔も傷だらけだった。
「どうした? なんかあったのか?」
 学年が違うので学校で工藤が噂になっていたのを聞いて、工藤のクラスに僕は入って、工藤と目線を合わせて聞いた。
「…別になんでもないから」
 工藤は拗ねているのか足を組み、窓側を呆然とどこかを見つめていた。
「…そんな訳ないだろう。顔も傷で…」
 僕はそう言って、工藤の顔を触ろうと手を近づけた。
「なんでもないって言ってるだろ!!」
 工藤は僕の手を振り払って、冷たい声で怒鳴り散らした。
 明るくて人当たりの良い工藤が急に別人のように変わってしまって、クラスメイトも部活動の仲間も呆気にとられていた。
 僕はクラスを見渡して、クラスメイト同士はコソコソ話をしていた。
 工藤の様子を大勢の人達が変わりように驚いているようだった。
 工藤はいきなり立ち上がり、教室のドアを開けて出て行った。
「工藤。どこ行くんだよ」
 僕は大きい声でクラスを離れていく工藤に叫んだ。
 工藤は僕の声を無視して、どこかへ消えた。
 部活動の時間にも現れなくて、僕は学校が終わると探した。
 すると、誰もいない空き地にいたんだ。 
 僕も来たことがなくて、初めてこういう場所があるのだと知った。
 そこには、子供のように縮こまっていた。
「工藤。何してんだよ。早く帰ろうぜ」
 僕は工藤の両肩を揺らして、工藤の目を見て聞いた。
「帰っても俺の居場所はどこにもないんだよ。母さんに怒鳴られておしまいさ」
 工藤は肩をすくめて、今でもどこかへ消え去りそうだった。
 もうこの世界にはいないみたいに。僕を置いてどこかにいきそうだった。