「そんなことないと思うけど。工藤は口にしないだけで六弥くんの事想っている気がするよ」
 本当は六弥くんといたいのか話したいのかなどと工藤の気持ちを考えて、私は六弥くんに言葉を返す。お昼ということで、高校全体は友達と話したりふざけ合ったりしていて、その様子を見ながら私たちは通り過ぎていた。
「そうかな。そう思ってくれるといいけど……」
 六弥くんは照れくさそうに髪をかいてから、私に声を発した。
「うん。六弥くんは工藤と幼馴染だけど、前からこんな感じなの?」
 私は疑問に思っていたことを六弥くんに聞いた。
「いや…違うよ。昔は明るくて周りからも人気があったんだ。あの時を境に変わった」
 六弥くんは昔を思い出すかのように私に話し始めた。
           *
「おう、じゃあな」
 クラスメイトに手を振って、別れたら、工藤は部活に真っ直ぐに向かって走り始めた。
 工藤は中学のクラスメイトや部活動の先輩達から人気があって、彼のことは中学全体で知らない人はいないほどだった。
 部活動が終わると、毎回地元のコンビニに立ち寄り、コーラーとチキンを買って仲間と食べて話すのが好きだった。
 その日は部活動の仲間と話すのが楽しくていつもより帰るのが遅かった。
 いつものように「ただいま」と玄関のドアを開けて帰ると、そこには母さんが小さいテーブルで座って泣き崩れていた。
「どうしたの?」
 工藤は目を丸くさせて、母さんの様子に驚いた。
「見て分からないの!  今日に限ってあんたは…ああ、もういいよ」
 母さんは起き上がり、小さいテーブルに両手で叩きつけ大きい声で俺を睨んで言っていた。小さいテーブルには、離婚届一枚があった。
 それを見て、俺は察した。兄貴はひっそりと椅子に座って、黙っていた。
「兄貴も黙ってないで、なんか言えよ」
 俺は冷静な兄貴に強く、興奮しながら言い放つ。