君の雨が溶ける

「なんで? 普通に話しかけてくれたでしょ」

 私は首を傾げた。前までは無表情で隣の席同士で話しかけてきたのに……

 そんなこと出来ていたのに、急にできなくなるんだ。私は不思議でならなかった。

 私の言葉で前まで出来ていた言動も違くなるなんて思いもしなかったからだ。

「……そうなんだけど…あの時は面白いやつだなって思って見てたんだけど、今はどうしたらいいか分からないから…」

 工藤は困惑した様子で私を見据えて言ってきた。 

 困惑した姿に私は何も言えず、ただ工藤を見て、唖然としていた。

「…おい、今宮さん」

 私が何も返答しなかったので、つり革を持ったまま工藤は再度私の顔を伺うように名前を呼んで聞いてきた。

「ああ、うん。分かった。私はいつも通りするから、工藤もあの時話したようにしよう」

 返事をしたあと、私は工藤の顔を見て、微笑み、右手を工藤に差し出した。 

「……ああ、そうだな」

 工藤は目を丸くしてから私を見た。

 それから、口角を上げてから自分の右手を差し出して、私と握手を交わした。

 工藤の姿は、優しく柔らかい風が吹いているかのように和やかだった。

 ある停留所に着くと、一気に人が降りたので、乗客はまばらだ。

 工藤は私の後ろの一人席に乗った。

 彼が後ろの一人席に座ったので、窓によりかかり、目を瞑った。

 工藤は座って、窓越しで私の気づかない間に私の寝顔を見ていたらしい。

 停留所に着くと、少し歩いて地下鉄に乗った。

 工藤は相変わらず、黙ったまま私についてきた。

 あっという間に到着地について、定期をピッとかざした。

 工藤は私についてきて、定期をかざしてから学校まで歩いた。

 工藤の思いがけない一言から始まったが、普通に話すように心がけているからか、話があまり進まないのだ。

 数分沈黙が続いた。私は気まずそうな表情を浮かべて、声を発した。