君の雨が溶ける

 なにを考えているのかが、分からない。どうしたいのよ。

 私は心の中でため息をついて、下を向いた時だった。

 工藤は小さな唇を開いて声を発した。

「……あのさ……」

 下を見たり、前を向いたり、周囲の様子をキョロキョロ見て、工藤は私に聞く。

「あ、うん。なに?」

 私は工藤の方に顔を向けて、返事をした。 

「…俺、あんたに聞きたいことがあって……。あのさ、あんたの心に響いたんだ」

 工藤は恥ずかしそうに俯き加減で、私に言い放つ。

「なんか言った? 私」

「うん。いなくならないでって…」

「あれは、いなくなられると私が困るだけって意味で、深い意味はないから」

 私は目を泳がせた。
 
 まさか、私が言った言葉でそんなに心が響いたの…

「今宮さんが何気なく言った言葉だと思うけど、俺にはきっかけになったんだ」

 工藤はつり革を握ったまま、私を見下ろした。

 私は工藤を見た。

 何かを見据えるように澄んだ瞳で工藤は私を見てきた。

「きっかけ?」

 私は首を傾げ鋭いまなざしで目を逸らせない程私の心まで惑わせてくるように感じられた。

「ああ、俺にとって今宮さんは…いや別に今は言う必要はない。俺と話そう」

 工藤は何やら真剣な表情で私に言う。

 そのきっかけはさっきほど言っていた言葉だけではなかったのだ。

 工藤が私に話したいと言った真実はまだ私は知らなかった。

 真剣に言っていたことは他の理由だと。

「話したいって言うのは分かるけど…工藤話さないじゃない」

 私は工藤の目を見て、聞いた。

 バスから外を見ると、学生やサラリーマン達が忙しそうに携帯を弄ったりしながら、早足で歩いていた。

「…話そうとは努力している。だけど、前みたいにはいかないんだ」

 申し訳なさそうに工藤は右手で頭を置き、私に言っていた。

 工藤は自分の頭を右手で置くことで、話せるように脳に話しかけているようにも見えた。