君の雨が溶ける

「工藤はね、人を信用しないタイプだけど、話してみたいらしいから付き合って。まぁ、そんな積極的に話すほうじゃないけど」

 六弥くんは工藤の肩を引き寄せて、笑みを浮かべていた。

「…はぁ、もう勝手にしてよ」

 私は自分の肩を手に当てて、歩き始めた。

 工藤と六弥くんは私についてくるかのように、一歩一歩足を踏み出していた。

 バスの停留所近くまで、私は一人ツカツカと前に出て、歩いた。

 あとの二人は私についてきた。

「……なんでついてくるの?」

 バスの停留所に着くと、私は工藤・六弥くんがいる後ろを振り返り、眉を上げて怒った口調で言い放つ。

「学校に行くから」

 二人で目を合わせて、同時に声をあわせて言った。

「……まぁ、そうだけど。分かった、分かったから」

 私は二人の信念におされて、仕方なく返事をした。

 バスが停留所に着くと、私は定期をピッとかざしてから二人もバスに乗った。

 バスに揺れながら、私たち三人は立っていた。

「……じゃあ、よろしくね」

 数分後、六弥くんは急に寄るところあるからと言って、私に手を振ってから違う停留所で降りていた。

 六弥くん、学校に遅刻しなければいいけど…。そう思っていたら、席が空いた。

 私は空いた一人席に座って、工藤はつり革を左手で握りしめて、私を見てきた。

 隣の席に座っている時みたいに、じっと見つめていた。

「なに」

 私は聞き返す。工藤と私は二人っきりになり、無言になった。

「ゴホゴホ、ゴホゴホ」

 バスの中なので人はいたが、気まずさのあまり、私は咳ばらいをした。

 工藤は何も言わずに、黙って無表情だった。

 話したいって言ったのは工藤なのに、どういうこと? 私が話しかけた方がいいの?

 チラッと工藤を見ると、前を見つめたまま、ズボンのポケットに右手を入れて、左手につり革を握っていた。