「今宮さん。このまま少しだけそのままで」
 六弥くんはどんな格好して言っているのか背中越しで見えなかったが、工藤の行動を見て何かを感じ取ったようだった。
「…っ、な、なんで?」
 私は息苦しくて、踏ん張って声を出した。
「もうすぐで工藤が戻ってくるから。あと少しだけ」
 六弥くんの言うとおりに私はした。すると、数分後。
「……うううっ」
 うなされているのか私の肩に頭をのせて、工藤は声を出していた。
「……うん?」
 工藤はいきなり私の両肩を掴み、私の顔を見てきた。
「何してるんだ、お前」
 いつもの工藤に戻っていたのだ。
「…こっちのセリフです。もう離して」
 私は言い返して、工藤の腕を離した。
「工藤。おかえり。いつもの症状出てて、今宮さんにハグしてもらったんだよ」
 六弥くんは私に両手を広げて、ヒーロー登場と言わんばかりに微笑んで、工藤に言った。
「いや、六弥がやればよかったじゃないか」
 眉をひそめて工藤は六弥くんに聞いていた。
「僕もやったんだよ。でも、前みたいにならなくて、急遽今宮さんと一緒に探していたから。やってもらっただけだよ」
 六弥くんはうん? 何か悪いことした? と言っているかのように目で訴えながら微笑んで、工藤に答えた。
「……そうか。ありがとう」
 工藤は右の方へ向いて、六弥くんにお礼を言った。
「今宮さんにもお礼言ってよ。探すの大変だったんだからね。分かってる?」
 六弥くんはそう言って、首を傾げた。
「…分かってる。今宮さんもありがとう」
 工藤は申し訳なさそうにする訳でもなかった。
 言葉ではお礼を言っていたけど、顔を歪ませて私にお礼を言っていた。
「顔と言葉あってないよ。もう2度としないからね。だから、いなくならないでよ」
 私はふんっと工藤に顔を逸らして、来た道を思い出しながら一人歩いて行った。