君の雨が溶ける

「六弥くん、どこに向かっているの」

 私は走っている六弥くんに大きい声で聞いた。

「…工藤がいそうな所。あそこならいると思うから」
 
 六弥くんは走りながら、私に聞こえるように顔を上にあげて、声を出した。

「ほんとにいるの?!」 

 私は工藤がいないのではないかと思った。

 何日もいない工藤を心配していたが、ただボッーとしていて、一人になりたいのかと…

「分かんない!行ってみないと…」

 六弥くんは再度大きい声で私に言い放ち、走り続けた。   

 一〇分後。六弥くんはあるところに立ち止まった。そこは、小さい空き地だった。

 こんな小道通りに、空き家があるとは…。

 空き地の中にあったマンホール管の中に行き、六弥くんが覗くと、そこには小さな子供のように工藤が縮こまっていたのだ。

「工藤!探したんだぞ。何してるんだ」 

 六弥くんは工藤を外に引っ張り出してから、工藤の両肩を掴んで、心配そうな目をして彼に聞いた。

「見ればわかるだろ。小さな世界にいるんだよ」

 工藤はいつもと違う様子で黒目を左右に動かして下に俯き、何か本当の子供のような行動をしていた。

 凛々しい表情をしていた彼が幼い頃に戻ったみたいだった。

「あー、またあれ発症したか」

 六弥くんは両手で頭を抱えていた。 

「何が起こってるの」

 私は工藤の様子を見て、六弥くんの方を見て聞いた。

「……っ。母親に暴力ふられてるんだ。軽傷な時は大丈夫だけど、重症な時は子供に戻ったようになってしまうんだ。最近はなかったんだけどな……、また発症するなんて」

 そう言ってから息を吐いて、六弥くんは腕を組んで工藤を見つめながら、考え始めた。

「…どうするの? 対処方法はあるの?」

 六弥くんが立っている横に私がいて、立ち尽くしている私は頭を抱える彼に聞いた。

「…あるはある。けど、今は通じるかどうかまで……は。やってみるしかないな」