「…そんなに大きい声で歌ってたら、迷惑だよ」
 後ろを振り返ると、そこには六弥くんがいた。六弥くん……なんで。
「…え? 六弥くん。…なんで」
 私は驚いて、ニコッと微笑んでいる六弥くんをただ見つめた。
「いや、図書室に用事あったから寄ったんだよ」
 六弥くんは私の前にあった椅子に座り、腰をかけた。
「そうなんだ」
 私は返事をし鞄から出した教科書のページを開こうと手にかけた時六弥くんは声を発した。
「今宮さんさ、工藤見かけてない?」
 頬杖を付けて、私の方を見て低い声で聞いてきた。
「いや、見てないけど…。先週あたりは通りすがりに工藤見たくらいで分からないよ。なんで」
 六弥くんを一度見てから、私は教科書に目を通したあとに声を発した。
「…僕もさ、工藤と連絡取れなくてさ。何回もかけたし、家にも行ったんだけど。誰もいなくて…今宮さんなら知っていると思ったんだけど。分かった、ありがとね、今宮さん。またね」
 心配そうに六弥くんは、私に声を詰まらせて言ってきた。
 本当に工藤がどこにいるのか不安そうにしている様子だった。
「…ちょっと待って。六弥くん。私も探す」
 私はその様子を見て、迷った結果、六弥くんに言う。
「今宮さんはいいよ。工藤とは知り合って間もないでしょ」
 控えめに六弥くんは私に優しく言う。確かに。知り合って間もない。
 だけど、腕のケガに服の汚れなど普通の日常生活で送っていたらできないものがあった気がしたからだ。
「…なんか気になるんだよね。前、工藤の家行くことあってなんか引っかかることあるから」
 私は前行った工藤の家を思い浮かべながら、言葉を返した。
「…分かった。探そう」
 六弥くんは返事をしてから、椅子から立ちあがった。
 私も教科書を鞄に入れ直して、六弥くんの後を追った。