髪や身体全体に雨の雫が落ちた男は私の頭に拳銃を突き付けていたが、男には拳銃がなかった。なんで拳銃がなくなったの? 雨に濡れる中、私は周りを見渡す。
「……拳銃がない。なんでだ、どこにいたんだよ!」
 男はうわぁーと大声で叫ぶ中、私が離す瞬間を見計らい、誰かが通報したのか警察官が駆け付けてくれた。
「おい、なんでだよ!」
 男は叫びながら、警察官二人に両手で捕まえられ、パトカーに連れられた。
 私は倒れ落ちながら、周りを見渡した。なんでいきなり拳銃がなくなったのか不思議に思えた。音がしたはずなのに。出来るのは、幽霊になった工藤しかいない。
「工藤!! いるんでしょ! 出てきてよ。六弥くんからもらったよ、紙袋。だから、出てきてよ! 工藤」
 私は誰にも見えない工藤に対して、叫んだ。工藤はどこかで見ているはずだ。
 叫び続けていると、びしょびしょの私は地面に座り込んでいた。
 すると、頭には雨の雫の一滴も落ちなかった。
 私は後ろを振り返ると、誰かが立って透明な傘をさしていた。
 「工藤……」
 私は工藤の名前を呼んで、彼を見る。彼はにこやかに微笑んで、私の方を見つめる。
「読んだ? びっくりした? あのくっちゃんさんで?」
 工藤は私と同じ目線で屈みこんで、お互い傘に入って聞いてきた。
「…うん……工藤。聞きたいことがあるの。工藤は私のことずっと見守ってくれて、工藤は幸せだった?」
 私は雨のせいなのか涙のせいなのか分からないが、目は充血して彼の瞳は欠片のように欠けているけど、光っていた。
「うん、今宮を見ていくうちに俺は変わっていた。家族は引き裂かれて、俺一人孤独だった。俺は苦しくてどうしようもないと思っていた時、今宮と再び歩道で会った。毎日のように今宮を付けて回って見るうちに、俺は一人でいても今宮を思い出して、笑うこともあった。空白だった感情が色に変わっていたんだ」