父さんはいつもなら無表情で愛人にしか笑った姿を見せないが、泣きながら笑う姿を見せていたのだ。
「剛、父さんは一度も笑う姿を見せたことがなかったな。こんな日に笑うのは変だけど笑ったぞ、父さんは…」
 運転手はもう一回クラクションを鳴らして、父さんは車の中で叫んでいた。
 兄貴も俺の名前を呼んでいた。俺はまさかそんなことを考えていると思っていなくて、後ろの席で三人を見ていた。本当に俺が亡くなったことで悲しいと思えてくれたのだと実感した。
 俺のことを忘れた母さん、俺と母さんを置いて、父さんと家を出た兄貴、愛人を作った父さん。俺の存在自体なかったことにしていたのに、亡くなったら後悔をしている。
「…はぁっ」
 俺はその姿を見て、どうしたらいいものか思考が追い付かなかった。
 悲しむようだったら、なんで俺に負担をかけることをするんだよ。目に涙を含まらせて、悲しむ家族を見た後、俺はこの場から去った。死んでから悲しむのは、家族と言えるだろうか。
 死んだ俺がどう思うとか考えなかったのかと考えた。
「葬式で死んだ俺に今更、死んでから言うんだよ」
 俺は独り言を呟きながら、歩いた。どこに行く当てもないのに。何故か俺は昨日たまたま通りかかった道へと歩いていた。通りたくなかったが、通らないと今宮に会えない気がしたからだ。下を向いていたが、俺は前を向き直して歩き始めると、そこには。
「……はぁはぁ……やっと、見つけた。どれだけ探したと思ってんの。ねぇ?」
 振り向くと、昨日襲われた男がいた。
「……っ捕まったはずじゃ」
 私は一歩下がって、目の前にいる男に聞く。昨日は信号がある歩道の所で止まったが、今回は歩道の真ん中あたりで止まった。人が沢山いる中で、男は言う。
「…そうだよ。捕まえた。ほらっ」
 男は両手には手錠があったが、何かで壊したのか片手ずつに手錠の輪っかが残されていた。