「……急に亡くなるなんて……。母さん何故かすごい悲しいの。分かる? お兄ちゃん」
 母さんは隣にいた兄貴に聞いていた。
「……悲しいね」
 兄貴はそう言ってから、母さんの肩をポンポンとリズムよく叩いて寄り添っていた。
 母さんたちの後ろで父さんは目を細めて、俺の写真を眺めていた。
 泣くこともなく、悲しむことなく、ただ冷静に見ているだけだった。
 母さん以外、泣く人はいなかった。父さんも兄貴もその程度なのだ。
 俺に関することはすべてどうでもいいのだ。俺の葬式はすべて終わった。
 親戚もいとこも、悲しそうな表情をしながらも、俺を見送った。
 俺は自分の葬式を見届け終わったので、どこかに消えようとした時だった。
 父は車の助手席に乗り、俺の骨を後ろの席に座っていた兄貴が持ち、母さんは兄貴の横にいた。運転手がクラクションを鳴らして車は動き出した時だった。
 俺はその車を見に行った。最後に、家族の姿を見ておきたかったからだ。
「…剛!!」
 母さんは車の中で俺の名前を呼んでいた。
 俺は母さんの後ろに座っていたので、母さんの声で頭を上げた。
「母さん!」
 兄貴は母さんに寄り添い、母さんを呼んでいた。
「…もういないんだよ。剛は。いないんだよ……」
下を俯いている兄貴は俺の骨を持ちながら、母さんの肩を左手で掴み悲しそうにしていた。母さんは兄貴の言葉を無視して、俺の名前を叫んだ。
「…分からないけど…ものすごく悲しいの。お兄ちゃんは悲しくないの?」
 母さんは兄貴に言っていたので、兄貴は声を震わせながら、言う。
「…悲しいよ、俺だって。あいつには何もしてやれなかったから…」
 兄貴がそう言うと、父さんは母さんの方向に振り向き、声を発した。
「…剛は今も生きてる。父さんも何も出来なかったからな……」