私はいつもより口を開けて、身体全体を使って彼に伝える。
 彼はただ私を見つめて、黙っていた。
「なんでなにも言わないの」
「…申し訳なく思ってんだろう、俺に。そんなこと思わなくていい」
 彼は私に一歩ずつ近づいて、真顔で答える。
「…………っうっうっうっ。うっ…うっ…」
 私は泣き崩れた。そうだ、工藤が亡くなったのだ。私のせいで。
「…今宮のせいじゃない。……俺が望んだんだ」
 工藤は地面に座った私を屈んで見てから、切なそうに声を発した。
「…望んだ? そんなこと頼んでないわよ!」
 泣きながら私は工藤に聞く。
「…俺が本当に救われたんだ。今宮」
 工藤は私の名前を呼んでから、私の両肩を掴んできた。
 彼の手は何故か温かく感じて、目の前にいる彼をただ見つめた。
「……っ…」
 私は何も言わなかった。彼をただ見つめてた。
「…俺は、今宮と会えてよかったと思ってる。会う前は俺は…なんというか心が一個空いたような気分だったんだ。自分でも分からないけど。今宮と会った時からなんだか変わった気がしたんだ。今宮の笑っている姿や怒っている姿など見ていて、俺は心が軽くなった。初めて高校の時に、会って話した時は嬉しかったし。今宮は自分で抱え込んでなんとか我慢しようとしていて、俺自身と重ねながら見てた。話して傍にいて、俺を心配してくれる人間がちゃんといるんだって……思えたんだ」
 工藤は私の目を見ながら、今まで私に思っていたことを言葉にした。
「…私以外に心配してくれる人いるでしょ? 六弥くんとか」
 私は工藤を見たまま、彼に聞いた。
「…六弥とはまた別だ。今宮は特別なんだ。俺にとって…」
 工藤は一歩足を踏み出して、私に近づいてきた。
 私と工藤はお互い胸が近くなるほどの距離で近かった。
 もうこの世にはいないのに、私は胸が躍りそうなほど嬉しかった。