君の雨が溶ける

 朝早くからバスはぎゅうぎゅう詰めで、立っているのがやっとだった。

 ドア側に寄りかかっていると、男性が私の前に現れた。

 誰だ? 

 私は恐る恐る男性を見ると、私と同じ制服を着ていた。

 同じ学校の先輩かな? 一八〇センチくらいあるだろう。

 足も細くモデルみたいだった。こんな同級生いたか。

 私はドア側によりかかり、男性が手すりにつかまっていた。

 何も気にしてなさそうに私はどこかを見ていた。

 男性は私に気づいたのか、私の方に目を向けた。

 数分、男性は黙って私は見ていたので、気まずくなり、目を逸らした。

 すると、男性は私に声をかけてきた。

「…同じクラスの子だよね?」

「え?」

「自己紹介の時、工藤の次に呼ばれた六弥」

 六弥(ろくや)。工藤剛の次に呼ばれた六弥。

 あー、工藤が挨拶し終えて、色々考えてたから、次の人の自己紹介は聞いてなかった。

「…あ、六弥くん。覚えてるよ」

 本当はあまり覚えていなかったが、失礼だと思ったので愛想笑いをして言った。

「…今宮宙ちゃんだよね?」

 六弥くんは吊り革を両手で持ったまま、私を伺うかのように聞いてきた。

「なんで覚えて」

 私は目を丸くして、六弥くんに声を発した。

 入学してそんな経ってないのに、なんで私のことを認識してるのか不思議でならなかった。

「だって、工藤と話してたでしょ」

 口元を緩めて、六弥くんは笑っていた。

「話したというか、ちょっかいかけてきてるようなものだよ」

 私は苦笑いを浮かべて、髪をかき分けてから目を逸らして周りの様子を見ながら言った。

 六弥くんの後ろに中年のサラーリマンがいて、私達の話を聞いているのか耳を澄ませていた。

 鼻息をふぅふぅと浴びせていたので、嫌だなと私は思っていた。

 すると、六弥くんは気づいたのか私に見せないように左に身体をずらして隠してくれた。