私は泣いた目を擦って、細い目で母さんを見て聞いた。
「宙の部屋にね、入ったこと」
 母さんは思い出しながら、私を見てから笑みを浮かべて下を向いて、頭を上げて言った。
「なんでそんなこと黙ってたの」
 私は目を丸くして、母さんに聞く。
「あなたが自分のことで一杯いっぱいだから宙の部屋まで運んだことは言うなって。工藤くんは、あなたのこと大切に思ってた。少しだけ話してみても分かったわ」
 母さんは私を見て、泣きながら微笑んでいた。
 工藤を見て、母さんにとってもいい奴だと分かっていたのだ。
 それだけでも、私は工藤がどういう風に話していたのか、どんな表情だったのか目に浮かぶほど工藤の姿が今も見えてくる。
「……母さん、私出かけてくる」
 私は点滴を外して、靴を履き、早足で駆ける。
「宙! まだ安静にしてないと!」
 母さんは私に叫んで駆け寄ろうとしたが、私は言葉を放つ。
「…工藤にまだ聞いてないことあるの!」
 私は叫んだ瞬間、頭が痛くなった。
「工藤くんは亡くなったのよ。どこに行くのよ」
 母さんは私の手を強く握りしめてきたので、私は手を払い抜けて、母さんに声を発する。
「工藤はまだどこかにいる。工藤言ってたの。私の言葉に答えてくれるって、だから、行かないきゃいけないの!」
 私はまだ工藤はどこかにいる気がした。遠くでどこか私を見ている気がするんだ。
 なんとなくだけど。あの公園にいるような感じがするんだ。あそこで立って、私を待っている。長い時間待たせているような…待っているのかも分からないが私は何故か確信していた。
 工藤がいると。私はあの公園まで走り続けた。
 病院から公園までの距離は走ると、三十分程着く。
 休むことなく、走り続けると公園に着いたのだ。
「……着いた」
 私はあの公園に着いた。工藤が何日もいなくなって、やっとの思いで見つけた場所だ。