「覚えてないのか。あんたが中学生の時に声をかけた男だよ。覚えてない？」
　男ははぁっと言い、苦笑いを浮かべて、私に話しかけてきた。
「……あの時の」
　私は自分の記憶を頼りに、思い出せるように男の顔を見る。
　すると、男の顔には両眉の間にほくろがあった。それで思い出した。今目の前にいる男は、私が中学生の時、男二人組に襲われそうになった時の一人だった。
「ようやく思い出してくれた？　あの時からね、俺、屈辱だったんだよ、あの時。本当は君を連れ出してどこかに行こうとしたけど。出来なかった？　なんでか分かる？」
　男は眉をひそめて、私を睨みつける。
「知りませんよ。なんでですか」
　私は負けないように男をマジマジと見て強い目で男を威嚇した。
「……アハハ、そうか、あんたは分からなかったか。あの時、俺ら二人だけじゃなかったんだぜ。あんたの後ろにもう一人いたんだよ」
　男が話していると、信号が黄色に点滅し始めた。
　私は渡り切ろうとしようと後ろを振りかえようとしたら、男は抵抗している私に力強く私の両腕を掴んできた。
「離してよ！　…何してんの！」
　私は叫んだ。ここは大道路で複数の人がいたが、私を少し見て歩いていくだけなのだ。
　沢山の人がいると、誰かが助けるだろうと思い、その思いがあざとなり、裏切られるのだ。
　歩行者信号は、点滅している黄色信号から赤信号に変わっていた。
　もう少しで車線は青信号に変わる。その前に渡らないといけないと思っていると男が言う。
「……ここでお前と死ねば、どうなるだろうな」
「あんたはストーカーの容疑者よね？」
　私は女子高校生がストーカーに襲われた事件のニュースを思い出した。
　犯人の特徴は黒い服、一八〇㎝以上の身長だった。
　細かい詳細はニュースでは言われていないが、今いる男はその犯人の特徴に当てはまる。