「………じゃあ、工藤の好きなもの教えて」
 今宮は俺に静かに聞いてきた。
「え?」
 俺は目を丸くした。好きなものは、アイス以外特になかったから。
「工藤の好きなものを知れば、少しは心安らぐかなって」
 今宮は素直に俺の答えに応えてくれた。
「前にアイスクリームって答えただろ」
 俺は目を逸らして、前に好きな食べ物の質問を今宮がしてくれたのを思い出して、言う。
「それ以外で」
 今宮は俺を見て、そう言う。
「………何もない。お前以外」
 俺はまた前に向き直して、手を振って彼女と別れた。
「ちょっと! どういうことよ!」
 今宮は俺に聞き返してきたが、俺は無視した。
 彼女には分からない。俺にしか知らない秘密があるからだ。
 俺は一歩ずつ、歩き、どこに行く当てもないが歩いた。
 自分の家に戻ることも嫌になっていたし、母さんからは忘れられているし、どこにも行くあてはない。
 トボトボと歩き始めたら、住宅街を1周して、公園まで戻ってきた。
 そこには、もう今宮の姿はなかった。
 再びジャングルジムの下の方に座ってから、近くにあったベンチに寝転んだ。
 そのまま俺は寝て、起きた時には次の日の朝になっていた。
 長袖を着ていたが、少し風が吹いていて、寒かったが、心の中は温かった。
 今宮が俺を心配してくれることで、俺の心はぬるま湯に浸かっているようだった。
 俺の人生は、この公園のジャングルジムで人生の分かれ道が決まった。