無意識的に兄貴の所に行くのが不安になっていたのかもしれない。
 好いていて兄貴についてきたけど、本当は兄貴の本当の姿を知りたかったのかと思えた。
 兄貴はいつも笑っていなくて、俺がついていても何も発しない。
 たまに笑う時は、何かを見ているときだった。
 それを見た俺は、兄貴のところに見に行くが、俺が来るとすぐどこかへ行ってしまう。
 そんな兄貴を見ていて、本心が分からなかったからだ。
 俺のことが邪魔なのかな。ただ、照れているだけかな。
 そんなことを考えていて、結局は前者の方だった。
 その数週間後、母さんがお気に入りのスカーフがなくなった事件が起こった。
 兄貴はリビングにいて、本を読んでいたが声を発した。
「さぁ、俺は見なかったよ」
 本のページをめくってから、母さんの方を向いていた。
「何探してるの?」
 俺は部屋から出て、母さんが探しているものを聞いた。
「あ、剛。いや、母さんのスカーフ見てないかなって」
 母さんは鞄や自分の寝室などを探してもないようだった。
「……うーん、あ、お兄ちゃんが持っていたよ」
 俺は昨日のことを思い出して、お兄ちゃんが持っていると発言した。
「お兄ちゃん? 持ってるの?」
 母さんは、お兄ちゃん? と言ってから、兄貴の方を向いて聞いた。
「何言ってんだよ、それはお前だろ。お前の部屋に行ってみて、母さんのスカーフがあると思うよ」
 兄貴はそう言うので、母さんは俺の部屋に行くと、俺の椅子の方にスカーフがあった。
「なんで?」
 俺はポツリと呟いて、兄貴の方を向くと二ヤリと微笑んでいたのだ。
 その瞬間、思った。兄貴は自分というものを守って、誰でもいいから身代わりがほしいのだと。何も真実を知らない母さんは俺のことを責めた。
 持ってるなら言いなさいよといつもより激しく怒ったのだ。