「………分かったよ……」
 俺は呆れたように返事をして、一方的に電話を切った。
 電柱に背中をつけて、両足を広げて空を見上げた。
 見上げても、何もない。ふわふわと舞っている空と水色のいろが俺の目に映る。
 空は何を考えて動いているのだろうか。空だって、考えや表情があるはずだ。
 辛い時はくもりやカミナリの時なのか。でも、晴れている時だって、疲れていたり、悔しかったりするはずだ。だから、人間もそうだ。
 何を考えて話しているのか、兄貴の言葉の意味は俺の為? それとも自分の為?
 兄貴の言葉は後者だろう。父さんが言っていたからか剛が傍にいても意味ないだろうとか言っていたからか分からないが、兄貴は自分の為でしか動かない。
 自分を守って生きていけるのは兄貴が持っている才能の一部だ。
 昔からそうだ。あの時だって、兄貴は自分のために動いていた。
 小さい頃から俺は兄貴について回る子だった。
 今よりは兄貴のことを好いて、兄貴がやることはすぐ真似ていた。
 だけど、俺が小学校の時だった。兄貴と一緒に公園で遊んでいたが、途中から兄貴は同級生と話をし始めた。俺は砂場でスコップを持って、一人で大きい城を作っていた。
 俺は同級生と話しているのを気づかずに、兄貴を呼んでいた。
「兄貴。どこにいるの? お兄ちゃん」
 俺はどこに行ったか分からない兄貴を呼んでいた。
 公園をあっちこっち回ってもいなかった。
 どこに行ったのだろうと思いながらも、ジャングルジムの下の方に座って、顔だけ動かして兄貴を探していた。その瞬間、飴が上から落ちてきた。
「……っ、飴」
 俺は頭上を見上げて、落ちてくる飴を見ていた。
「ごめん。もしかして、お兄ちゃん探してるの?」
 ジャングルジムのてっぺんにいる女の子が上から話しかけてきた。
「うん」
 俺は後ろを振り向き、返事をした。