俺は携帯に残っていた兄貴の写真をおばあさんに見せた。
 すると、おばあさんは目を見開いて、そうそう、この人よと俺に言った。
「ありがとうございます」
 おばあさんにお礼を言ってから、俺は携帯で電話帳にある兄貴の電話番号をタッチした。
 兄貴はすぐ電話に出た。
「はい」
「母さんは兄貴が連れ出したのか」
 俺は今兄貴が何をしているのか分からないが、電話の向こう側はやけに静かだった。
 物音一つもしない。
「探したか。母さんを」
 兄貴はニヤッと笑っているのだろう。電話を出た際の兄貴の声はやけに冷たい。
「当たり前だろ。何考えてるんだ」
 兄貴はあざ笑うようにしているのか、俺の心を刺すように言ってきた。
 俺は対抗するように答えた。
「なんだよ。別にいいじゃないか。お前に母さんをどうしたいのか聞いたら、お前は母さんとここにいるって言うだろう。何も言ってこないから、答えは出ているのかと思ってな」
 兄貴は勝手なことを言う。俺の気持ちなんて分かるはずがない。
「……なんでそんなことする。俺がどんな気持ちでいるのか分かるのか」
「……母さんのことはどうする? 母さんの立場で考えたことあるのか?」
 兄貴は冷たい視線で俺を見据えているのだろう。
 俺の言っていることを答える気がなく、母さんのことを話しに出してきた。
 俺のことなんて考える気なんてさらさらないようだ。
「……はあ? 俺が聞いていることをなんで答えてないのに、その言い方ないだろ。
俺の言い分はどうにもならないってこと?」
 早足で歩いていたせいか電柱にぶつかりそうになって、俺は電柱の前で止まった。
 歩くのを止めて、立ちどまって電話越しの兄貴に言う。
「ああ、どうでもいい。母さんのことをまず考えないといけないだろ。お前はあとだろ」
 兄貴は当たり前のことだと言わんばかりにどこかを見つめながら言っているのだろう。