頭の中の片隅には、俺がいるのだろうか? 俺は母さんの言葉に悔しさが増した。
 覚えているなんて、簡単に言わないで。現実、俺のことは覚えていないのだから。
 口をかみしめて、母さんの言葉を飲み干した。
 溜まっていくお腹の中では、言葉と同時に母さんの笑顔が思い浮かべる。
 前までは愛想笑いだったが、今は心の底から楽しそうにしている。
 忘れたから、何もかも楽しく見えるのかな。俺だって、忘れて、笑いたい。
 けど、笑う瞬間は……今宮といる時だけだった。
 その時が俺にとって、ゆっくりとしたペースで流れている。
 笑うのはこの時だけでいい。笑うなんてその瞬間しかない。
 俺はどうせ長生きはしないのだから。ズボンの中にあった携帯を取り出して、ある写真を見つめる。その写真は、小さい頃の俺と誰かの写真だった。
 確か近所の男性が撮って、小さい頃の俺にその写真を渡された記憶がある。
 成長した俺は引き出しに閉まっていたその写真を取り出して、スマホでその写真を撮った。
 俺は写真を見て、微笑んだ。この時から、俺の人生が決まっていたのだ。
 工藤は毎日学校に来た。私の隣に座って、机に顔を付けて寝ているだけだった。
 テストの時期が近くなっても、学校に来ては寝ている工藤だった。
「テスト近くなってきたけど、勉強は?」
「してるよ。頭の中で」
 工藤は机に突っ伏したまま、私に答えてきた。
「それだけで出来るの?!」
 私は工藤の方を向いて、聞く。
「うん」
 工藤は私の方を顔だけ向けて、目を瞑って返事をしていた。
 それだけ寝ているのに、工藤はいつも上位の順位だ。
 本当に勉強しなくても、出来る奴は違う。
 私はふーんと頷きながら、テストに向けて自主学習していた。
 授業中だが、先生が休みになったので自習の時間だ。
 私は苦手な数学を解きながら、机に横になっている工藤に話しかけた。