いつの間にか、一日は過ぎて、家に着くと、私は玄関で立ち止まってから2階にある階段を上りながら、考えていた。工藤が学校に来たことに安心していた。
 彼はいつも通りしているようだったが、私は違う気がした。
 寝て自分の中で胡麻化しているように見えた。
 寝ているふりだけして、本当は寝てなかったんだよね。
 私が一人でブツブツと何か言っていたことも反応したんだよね、私はそう感じた。
 工藤は自分の些細な言動を知らない。私は彼にとって、何なんだろうか。
 知り合ってそんな経たないのに。彼は私をどう思っているのだろうか。
 自分の部屋に行き、鞄を手に持ったまま、立ち尽くして考え込んでいた。
「……お兄ちゃん!」
 母さんは家にいる兄貴を呼んでいた。
 だが、俺は母さんに名前で呼ばれなくなった。
 しかも、誰? という顔をしてから、あ、兄ちゃんのお友達の人ねと言うのがお決まりになっていた。俺はこの家に住んでいるので、なんで毎日いるのかと兄貴に聞く。
 兄貴はこう答える。俺の友達で母さんが一人で心配だから見てもらっているんだと母さんに言うと、母さんはへぇと俺の方を見て、どこかを向いていた。
 俺のことを母さんが分からなくなってから、三日経っていた。
 三日経ってから、兄貴は俺に言った。
「剛。ここ数日この家に通ってるけど母さんはお前のこと覚えていない。二日経てばお前のこと思い出すと思ったけど思い出せないでいる。提案だけど母さんは俺に任せてくれないか?」
 兄貴は腰を手に当てて、ふぅと息を吐いてめんどくさそうに俺に伝えてきた。
 自分の母になんでそんな態度でいるのだろうか。
 俺たちをここまで育っててくれたのに。兄貴はどこに行ったって、父の味方なのだ。
「……任せられないよ。兄貴は父さんの味方だろ。母親がこんな状態だからってあんたらに母さんやるかよ!」