あっという間に夏は過ぎて、秋の冷たい風が吹き始めた。
 翌日。彼は学校に来た。しかも、私よりも早く。
「…なんで」 私は工藤が座っていたので、驚いた。
「学校に来たんだよ。じゃあ、来ない方いいか」
 頬杖をついて、立ち尽くしている私を見下ろすように聞いてきた。
「……いや、そんなことは言ってない」
 私は自分の席に歩み寄り、席に鞄を置いて目を泳がせた。
「……大丈夫か?」
 工藤は私の様子を窺いながら、聞いてきた。
「なにが?」
 私は椅子に座り、鞄の中に入っていた教科書を机に出して工藤を見ずに答えた。
「…いや、色々とだ……」
 工藤も私の方を見ずに、真正面にどこかを見つめていた。
「そっちこそ大丈夫なの?」
 私はチラッと工藤を見ると、同じように工藤もまた私を見ていた。お互い、目を逸らした。
「……ああ、うん。あの時は悪かった。どうにかしてたわ」
 工藤は目を逸らしたまま、私にお詫びを言ってきた。
「……いや、別に大丈夫」
 私は正直気まずかった。
 彼から抱きしめてきたことなのに、何も気にすることなんてないが私は彼の感触が忘れられなかった。
 彼の息遣い、冷えきている手、震える身体。私はその全てを思い出すと彼を見れなくなる。
「…なら、よかった……うん」
 工藤は下を向いてから、安心しきったように息を整えていた。
 私は工藤を横目で見てると、その姿が見えた。彼も顔を私の方を向いて、一言言い放った。
「よかった」
 彼は前よりも口角を上げて、優しそうに私を見つめていた。
 柔らかそうに見つめる眼差しはどこか欠けているのに、真っ直ぐに誰かを通して自分を慰めているように見えた。
 そんな彼が私にはもの寂しそうなのに明るく振舞っている気がした。
「……工藤。今日はサボらないよね?」
 私は工藤に向き合い、聞いた。
「急になに」
 工藤は何かと思えばと小声で言ってから、私に向き合って声を発した。
「嫌…だって、大体サボってるじゃない」
 私は目を逸らしてから言って、工藤を見た。