出会った当初は、母の暴力で苦しんでいて、人の温もりが欲しくなり、子供のように戻る彼を見て、驚いたし、こんな人もいるのかと思った。ただ最初はそんな感情だった。
 今は工藤と話すようになってからは、彼の表情を見て話すようになった。
 無表情で何を考えているのか分からないが、時折、表情がないが上に心の中で何かを叫んでいる気がした。だから、自分の中で抱え込んで我慢しているのだ。
 抱え込めなくなったら、どうしたらいいか分からず一人で迷ってしまうのだ。
 私はそんな彼を見てから、彼の方に一歩踏み出す。
 彼の頭に傘を差しだして、上から彼を見下ろす。彼は雨が当たらなくなり、頭を上げた。
 上げると、彼の目には寂しさとともに哀れな目をしていた。
 彼は私を抱きしめて、必死で何かにすがっているようだった。
 私は彼に尋ねたかったけど、彼は彼なりの抱え込んでいるものがある。
 自分の鞄にあった折り畳み傘を出して、彼に差してきた傘を渡した。
 今日、もしかして学校に来ないのかもしれない。
 工藤の苦しみは私には分からないが、一人でいるよりも誰かがいることを分かってほしい。
 私は傘を差しながら、学校に向かった。雨がぽつりぽつりと弱くなってきたが、歩く者達はまだ傘をさしていた。差しながらも、携帯で電話をしている人もいれば、親と小さな子供が手を繋いで笑顔を浮かべていたり、なにそれ~と友達同士で傘をさして冗談を言い合っていた。
 私はその人達が通り過ぎてから、立ち止まった。
 この人達も悩みや葛藤があるが、一日を過ごしている。
 悩みなんて、誰もが持っていることだが、悩みは小さい大きいはない。
 自分自身の抱え込んでいるものが、どんどん大きくなって膨れ上がってパンク寸前までくると、どうしようもなくなる。その前になくさなければ、爆発する。