私は母さんが作っていた朝食の玉子焼きを一つつまんで、食べた。
「…なにやってるの。ご飯は食べていきなさいよ」
 母さんは私に言いながらも、朝食の準備を最優先にして、台所でセカセカと動いていた。
「時間ないから」
 私は大きい声で母さんに言い放ち、歯磨きをした。
 急いで支度をしてから、私は自分の部屋にある鏡で全身を見る。
 高校生で制服姿の私。
 内面は何も変わっていないし、自分の制服姿を見ると、私はまだ幼くてこども。
 高校生だからといって、甘く見ないでほしい。学生だからやれることをやりたいだけだ。
 今やれることをやる。私は長い髪を手で整えた後、玄関でロファーを履いた。
 雨が降る予報だったので、傘を持って黙ったままドアを開けて走り出した。
 もう行くの、宙~! ご飯は本当にいいの?
 母さんの声が響き渡っていたが、私には聞こえたが聞こえなかった。
 今、私の心の中は工藤に会うことが第一優先だったからだ。
 工藤が悲しい思いをしているような気がしたからだ。
 私は傘を持って、変な走り方をしているかもしれないが、早めのバスに乗った。
 工藤の家に早く辿り着きたかった。地下鉄に乗り、傘をさして学校の前を通り過ぎた。
 雨も強く降ってきて、傘をさして走るのもきつくなり、歩いていた。
 歩いていたらもう少しで工藤の家に着きそうなときだった。
 地面に屈んでうずくまっている工藤がいたのだ。
 工藤は強く雨が降っているのに傘も差さず、うずくまっていたのだ。
 私は工藤の様子を後ろから見ていると、声を発さずにただ雨に打たれていた。
 その姿を見て、私は思った。工藤は何かあったが、誰にも言えないのかもしれない。
 あんな屈んで一人でうずくまっているのは、子供のようになった彼の姿を見た以来だった。