母さんとたわいもない話をして、私は思った。本当の親じゃなくても、愛情を注いでくれていることには変わりはない。変わりはないけど、思い出してしまうんだ、どうしても。
　本当の親のことを思い出す。本当の親のことは覚えていないが、これだけは覚えていた。
　私に優しく頬を触る母とそれを見守っている父が笑顔で見ているのだ。
　その映像は私の頭の中で父さんと母さんと食事をするときに、いつも思ってしまう。
母と父が食事している時は、こんな顔をしていたのか、もしかしてこういう顔をしていたのかなと想像してしまう自分がいる。柔らかくて包む込む母、ただ大きい口を開いて笑う父。
　その姿だけがやけに映画のワンシーンのように頭に情景が浮かんでくる。
　私は母さんの話を聞きながら、父さんが帰ってきたので迎えに出てから、父さんの食事の準備をする。もし本当の親だったら私の言動になんて言うのだろうと思ってしまう自分がいる。
なんて考えている自分は疎かではかない。
　工藤だったら、どう考えるのだろう。そう思っている自分がいた。
　翌日。私は朝になって、考えたのが工藤のことだった。
　昨日からいないということはなにかあったに違いないのに、何もしてやれないのはなんだか悲しいし、工藤がどこかに消えてしまうのかと考えている自分に驚いた。
　私達はいつの間にか傍にいることでお互い気持ちが安らいでいたのだった。
　ベットから起き上がって、私は急いで学校の支度をし始めた。
　水を飲み、母さんが朝食の支度をしているところだった。
「起きたの？　早いわね、今日」
　母さんは私が起きたことに驚いているのか、目を丸くして見てきた。
「うん、今日早めに出る。用事思い出して」
　私は目を擦り、答える。
「何かあるの？」
　母さんはトマトを水で洗って、私を見てからまた洗い始めていた。
「うん、大事な用事。あ、母さん。これだけでいいや」