「――ハルキシさんの秘密を聞いたの。沖田くんには内緒で。どうして私に教えてくれたのかって訊いたら、この世に一人くらいは、沖田くんの周りで、本当のことを知ってる人がいてほしかったんだって。でないと、ハルキシさんがかわいそう過ぎるからって」

「それを自分で言えるのが、あいつの大したところだな……。ま、おれは縁遠き弟だからな。『本当のことを知っていてほしい人』にはエリーの方が選ばれたわけか」

「えっ!? い、いや、そんなことは」

「あるさ。あいつがなんて言ったかはしらんが、ハルキシはエリーに会いたくて、会いに来たんだよ。それに、あいつの意見はごもっともだ。瀬那の近くにいる誰かに、知っておいてほしいと、おれもそう思う。本人でも、無関係の他人でもない、……おれと瀬那の信頼してる人間に」

屋上に風が渡った。

にじんでしまった涙で、目元がひやりとする。

「おれはそうそう一途なたちじゃないから、すぐまた別の人間を好きになるだろう。それまでは、おれの気持ちを、エリーだけは知っておいてくれよ。おれの頭蓋骨の外でも、それを事実として知ってくれているやつがいたら、そうしたら、まるで、本当のことみたいだもんな」

「嘘なんかじゃない」

「ありがとうよ。しんどいだろ。ごめんな」

かぶりを振る。

涙は拭かなかった。

瞼を腫れさせずに、沖田くんに会いに行こう。

いくつかの内緒を抱えて。

それはガラスの膜でできた球のように、あまりに脆くて、今はまだ私が表に出していいものじゃない。

誰かを愛しく想うということは、その誰かの周りの人たちも守りたくなる、ということなのかもしれない。

言葉にすれば当たり前のようなことが、この時、ようやく私には理解できたようだった。