「そうかも。それって、私のせい? ……神くんは、その、おこがましい言い方だけど、私のことを応援してくれてるんだって思ってたから、私能天気にそれに甘えてて……」

「思ってたもなにも、応援してるぞ。……どうした?」

「神くん、ハルキシさんとはどういう関係なの?」

いつも大振りな神くんの動作が、心なしか固くなった。

「私の知ってる範囲だと、ハルキシさんと神くんて、あまり良好な関係じゃないでしょう? でも、ハルキシさんは、神くんのことを下の名前で呼んでたの」

最後にあった日の柏で、確かに、「瀬那と巳一郎」と言っていた。

「聞いてる限りでは、ハルキシさんと神くんの初対面の場に沖田くんが居合わせた時、少しかしこまって話した神くんに、ハルキシさんが変なしゃべり方だって言ったんだよね? ……前からの知り合いだったの?」

神くんが、指先で頬をかいた。

質問の形にはなったものの、反応をうかがいながら話すようなことはしたくなかったので、私の方がしゃべり続ける。

「私と一緒にハルキシさんのお店に行った時も、場所を知らないはずなのに、今思えば結構範囲を絞って、あっさり見つけてた。あの時は、凄いなとしか思わなかったけど……。その後、私を心配してくれて沖田くんと三人で合流した時も、勘がいいなって思ってた……でも、あのタイミングで三人揃うっていうのは、運がよすぎるなあって」

神くんが、深く息をついた。

「ああ。あの時の瀬那は本当に偶然に君を見つけたけど、おれはズルしたよ。ハルキシのスマホにアプリ入れて、GPSで場所分かるようにしてあったんだ。で、少し離れたところから、ずっと様子を見てた」

「スマホに……? それじゃ、かなりハルキシさんとは親しく……」

「おれはあいつの弟だ。疎遠ではあるんだが、別に仲が悪いわけじゃないから、用事があれば会える。あいつとの連絡も、まあ瀬那よりは取れる。住所なんかは知らねえけど、それでもスマホにいたずらするくらい余裕だ。まさか、あいつと瀬那がつながるとは思ってなかったから、知った時は仰天したけどな」

弟。

じゃあ、お兄さんのハルキシさんが、沖田くんになにをさせてるか知ったまま……

「言い訳にしかならんがな、おれなりになんとか瀬那に足を洗わせようとはしてたんだ。でも、ただやめろと言ってやめるなら苦労はねえよ、余計に意固地になるだけだ。あいつなりの目標があるならなおさらに」

「その目標のことは」

「……それがハルキシの手術代だって知った時は、本物のばかだと思ったよ。ハルキシともできるなら手を切らせたかったが、おれと瀬那が打ち解けたころは、あいつもうあっちの仕事にどっぷりだったからな。下手に小言を言えば、おれの方が切られかねない」

「そんなこと」

「あるさ。去年のあいつの目には、ハルキシしか映ってなかった」

沖田くんの言葉を思い出す。

――でも、出会いたいとは思ってた。誰かと――初めてハルキシに会った時、これがそうなんだろうなと思ったよ――

間近で見ていた神くんがそう思ったのなら、きっとその通りだったんだろう。

「私は、神くんほど勘がいいわけじゃないけど、一つだけ、思ったことがあるの。……訊いてもいい?」

神くんは、すっと目を細めた。口元はほんの少し笑っている。

「どうぞ」

「神くんは、沖田くんのことをとても大事にして、思いやってると思う。……それは、友達として?」

「というと、ほかになにが?」

「前、沖田くんに中庭でキスしてたのは、本当にふざけてのことだったの?」

神くんが視線を外した。

「おれは、ふざけて友達にそんなことをする人間に、」

「見えないよ。特に、沖田くんの仕事を知っていて、その上で大切に思っているなら。神くんは、そんなことしない」

再び目が合う。

「……そうだな。ふざけてキスなんかしない。友人なら、なおさらに」

神くんの体のこわばりが解けていく。

「まさかエリーに看破されて、おまけに白状させられるとは思わなかった。君、なかなかしたたかになったな。正妻の余裕か?」

いたずらっぽい神くんの視線から、今度は私の方が目を逸らす。

「ち、違うよ。ごめん、私も悩んだの。凄く悩んで……それでも、訊いた方がいいような、気がして」

涙腺が熱を持ってくる。ひどいことをした、という痛みが、目元を小さな針でつつくように集まってくる。でも、私が泣くわけにはいかない。

「いや、今のはおれの意地が悪かった。……なにか、心境の変化か?」

「ハルキシさんと、この前、最後に会った時――」

「おう?」