「衿ノ宮」

「は、はい」

「おれはずっと男が好きで、男に体を売ったことがあって、しかもそれは、その時好きだったやつのためだったわけだけど。それでもいいのか?」

いいのか?

……なにが?

「君は、こんなやつの、どこが好きなんだ?」

どこが。それは、とても難しい質問なのだけど。

「……言葉では、うまく言えないけど。沖田くんの、見た目や声や、心の中身まで全部同じ人が現れたとしても、……私は、沖田くんしか好きにならないと思う」

「……分かるよ。その感覚は、おれにも。確かにそうだ。まさか、こんなことが人と分かり合えるとは思わなかった。……衿ノ宮」

「うん?」

「君が好きだ。おれとつき合ってくれ」

そう聞いただけでは意味がつかめず、私は「え?」と聞き返してしまう。

沖田くんが、もう一度、丁寧に、今の告白をゆっくり繰り返してくれた。

その意味を、ようやく理解できた時。

もう夜だというのに、私は、思い切り叫び声をあげてしまった。

沖田くんが笑って、横から私の腕を抱いた。

きっとこの時私は、こみ上げるいくつもの感情に圧倒されて、とても変な顔をしていたんじゃないかと思う。

それを、すぐ真上から覗き込んでいる沖田くんに、全て見られてしまった。

丸い月も虫の音も、私の目や耳からは吹き飛んだままだった。

自分が泣いている、と気づいたのは、沖田くんに頬を指先で拭われた時だった。

沖田くんの瞳も濡れていた。

腕一本だけで抱かれているはずの体が、温かい繭にくるまれているかのように温もっていた。

沖田くんもそうだといいな、と思った。