「言っておくよ、瀬那。その女は、今まで周りにいなかった、変わり種の男が珍しくて舞い上がってるだけだよ。ほかにもっと構いがいのあるやつが出てくればそっちに行く。お前は女とは合わない。傷つくのはお前だ」

「な……」

反論しようとした私を、沖田くんが手で制す。

「今おれをおもちゃにしてるのはお前だろ、ハルキシ。おれたちが消えるまで、もうしゃべるな。お互いのために」

そうして私たちは、お店を後にした。

速足で、まっすぐに駅へ向かう。

「衿ノ宮、本気でごめん。怖かったよな」

「ちょっと……いや、最後はかなり……。でも、戻ってきた私が悪いから。でも、知らなかった。そうなんだ、沖田くん、あの人のために……」

ぴた、と沖田くんが足を止めた。

人波が私たちを置いて通り過ぎて行った。なんのお店だか今一つ分からないゴリラの看板が、私たちを見下ろしている。

「そうだな。衿ノ宮には、近いうちにちゃんと話すよ。あいつのことも、おれのことも」

「マジか。そいつは進歩だな」

いきなり声をかけられて、私と沖田くんは飛び上がった。

「じ、神くん!?」

「ミー、お前もまだいたのかよ!」

「戻ってみたらお前らが待ち合わせ場所にしてた店にいないからだろーが! ハルキシがこねえから辺りを見て回って戻ったら、瀬那まで店から消えやがって!」

「ああ。……悪かった。なんていうか、成り行きで」

沖田くんの表情は、きまり悪げだったけど、口元が緩んでいる。

私や神くんの隣は、居心地がいい。楽しい。そう沖田くんは言ってくれた。

「ていうか遅くなったな。衿ノ宮、早く帰ろう。親御さんに連絡したか?」

「う、うん。電話する。……その前に、沖田くん」

私は沖田くんの耳元に寄った。神くんが、内緒話だと察して離れてくれる。

「私が、沖田くんに、その……入れあげてるとか、なんとか」

「ああ。ハルキシの言ってた寝言な。安心してくれ、真に受けやしないから」

……うん。

「衿ノ宮こそ、また聞きたくもないこと聞かされて不愉快だったろ? 本当にデリカシーないんだ、おれたち」

……ハルキシさんがあんな言い方したのは、デリカシーとは別の問題だと思う。

その辺りを、沖田くんとはちゃんと話をすべきなんだろう。

夏休みは、もうすぐ八月に入る。

残り、約一ヶ月。

そう短い時間ではないはずだ。

なにかを、良い方に変えるには。

私にも、なにかができる。今はそう思える。

だって今の沖田くんの横顔は、自分の体を売ってまで尽くそうとした人に会った後とは思えないくらいに、切なそうだった。