「……なんとなく察しがつくと思うけど。まあ、その。……小遣い稼ぎ、のようなこと」

小遣い稼ぎ。なにをして、どんな小遣い稼ぎ?

「衿ノ宮。今見たことは、学校では……ああ、いや、いいや。別に、言っても」

「え?」

沖田くんの視線が、ふっと私から外れる。

「弱味握られたり、人に借り作るの好きじゃないんだ。自分のしてることの責任くらい、自分でとる」

「い、言わない! 誰にも言わないよ! 言うわけない!」

沖田くんがぎょっとして、また私と目が合った。

「……ありがとうよ。おれに恥をかかせまいとしてくれるってわけだ」

沖田くんの言葉はお礼の形ではあったけど、私との間に、なにか冷たい線が引かれたのを感じた。

違う。うまく言葉にできないかもしれないけど、今すぐに、違うと伝えなくちゃいけない。

「恥ずかしいことかどうかは知らない。私には事情は分からないけど、それなら、分からないうちに私が勝手に人に話すのはだめだと思う。そんなことしたら、私が恥ずかしいよ。だからそうしない」

沖田くんは、小さく口を開けたまま、ぽかんと私を見た。その口が、やがて動く。

「衿ノ宮は、おれの噂を聞いて、張ってたりしたわけじゃないんだよな」

噂。

それは聞いていた。

だから、最初は無理矢理に、あのおじさんはお父さんなのだと思い込もうとした。

「噂は……知ってる。でも、ここにいるのは本当に偶然だよ」

「だよな。そうじゃなきゃ、あんな風に止めたりしないよな。ごめん、衿ノ宮。おれ、すねた考え方がくせになっちゃって」

沖田くんは照れたように笑った。昔、おばあちゃんがもらってきた岩垂草(いわだれそう)が咲いた時の、その花に似た笑顔だなと思った。

「ううん。私だって、人にちゃんと説明しないと……説明したって、分かってもらえないようなこともあるから」

「誰だってそう、か。確かにね。ちなみに、噂、どんな風に聞いてる?」

私は息を吞んだ。

けれど沖田くんは、困ったような笑顔で、親に怒られてでも捨て犬を守る子供のように、怯えを含んだ穏やかさで訊いてきていた。

答えなくちゃいけない。

「一度だけ、聞いたことあるの。……新宿とか池袋で、なにか悪いことをして、大人からお金をもらってるって」