そして、ハルキシさんはふいにこちらを振り向いてきた。

「ひえっ!?」

「おー、バッチリ目が合った。見つかったなあこれは。今の黒シャツ、おれたちがここから覗いてるのを見つけて、ご注進に行ったんだな」

「ど、どうしよう」

「逃げるような筋合いでもないだろう。いいじゃないか、ご対面しておこうぜ」

そう言って神くんがすたすたと歩いていくので、私も後を追った。

私たちに気づいた沖田くんが、驚きの表情を浮かべる(それはそうだ)。そして、私に少しだけ、とがめるような視線を送ってきた。くるなと言っただろ、ということなのだろう。

神くんはそんなことにはまるで構わず、沖田くんとハルキシさんの目の前まで来ると、

「よう」

と手を上げた。

ハルキシさんは、前に神くんが言っていた通り、布地が少ないわけではないのにところどころ素肌の見える服を着ていた。そういうデザインなのか、それとも自分で切っているのだろうか。前髪の間から覗く目尻が吊り上がっていて、ただ目が合っただけでも、怒られているように思えてしまう。

「……なんだ。お前」

ハルキシさんのその声は、ほっそりした青白い顔とは裏腹に、ハスキーで低い。

「いやあお久し振り。瀬那のソウルメイト、神くんです。ハルキシさんはご機嫌うるわしゅう」

「気色悪い呼び方をするな。どういうつもりだ?」

その語尾に、沖田くんの声が覆いかぶさる。

「まったくだ。どういうつもりなんだ、ミー? 衿ノ宮まで連れてきて。ハルキシ、この子はおれの同級生で衿ノ宮」

「は、初めまして。衿ノ宮燈です」

ハルキシさんはなにも言わずに、私をちらりと見ると、沖田くんへ向き直った。

「で? お友達でおれを囲んで、瀬那はおれをどうしたいんだ?」

「変な言い方するなよ。おれはただ、なんでおれの妙な噂なんて学校に流したのか知りたいだけだ」

「妙な噂? 事実だろう」

「ハルキシ。真面目に訊いてるんだ。おれはもう仕事はやめるつもりだ。本当は近いうち、それを言おうと思ってたんだよ」

「ほお。カタギに戻りたいと」

「元からカタギだ」

「体売るガキがか?」

「……ハルキシ。お前、酔ってないよな?」

ハルキシさんはそれに答えず、今度はくるりと私に向き直った。思わずびくりと肩が震えてしまう。