「いや、だから。瀬那のことが好きなのは分かったとして、特にどこがそんなにいいんだろなって」

「なっ、なぜそれを!?」

「いや……分かるだろ、さすがに。君、相当に分かりやすいぞ」

「一日に、二回も言われたっ……!」

もしかして、私の周りで私の気持ちに気づいてないのって、当の沖田くんだけだったりするんだろうか。

あわあわしている私を促して、神くんが進む。

慌ててそれについていった。

「瀬那なあ。応援してやりたいけど、女子を好きになるかなあ。あんまり浮いた話自体ないんだよなあ」

「あのっ、気にしないでね!? 私が勝手に、こう、勝手な感じで勝手なんだから!」

神くんがくっくっと笑った。

「あー、初々しい。おれもそんな風に、恋! してみてえ」

なにが恋! かと神くんに突っ込んでいる間に、歌舞伎町までやってきた。

「じゃ、狭い範囲でだけうろうろしてても目立つから、その辺適当に歩くぞ。おれから離れずに、人に声かけられても無視な。あと、暗くなってきても堂々としてるように。今日は成年済みの女子大生だと思って行動してくれ」

やや夕暮れの気配が強くなってきた夏の歌舞伎町は、結構怖いところだというイメージがあったけれど、人通りが多くにぎやかで、思っていたほどではないようだった。

それでもやっぱり、見た目のおっかないお兄さんがいたり、強い調子で呼び込みしてくる人もいて、私が一人で歩くにはまだ勇気がいる。

「夕飯用に、行きたい店があったら目をつけとけよ。とはいえ、チェーン店の方が安心かな。あとは、そこのビルの一階のレストラン街とか」

「もしかして、ぼったくり店というやつがそこかしこにあるのでは……」

「かもなあ。とはいえ、おれたちが入れるような店では、あんまりないだろうよ。そんなに不安なら、行ってもハンバーガーショップとかにしておこう」

神くんが、大まかに周辺の地理を教えてくれる。

「瀬那は、店の中には入らないって言ってたんだろ? なら、幾分見つけやすいな」

それから十五分くらい、私たちは南北に道を行ったりきたりしながら、辺りを見回していた。

けれど沖田くんは見当たらない。

ハルキシさんを見知っているのは神くんだけだけど、こちらも見つからなかった。

「んー。もう少し探して成果がなければ、二丁目の方まで行ってみるか。適当なとこで夕飯にしよう。エリー、足平気か?」

「このくらいなら全然。買い物で、三四時間歩くこともあるし」

「タフだなあ。だがそうだな、八時くらいまで粘ってだめなら、後はおれ一人で探す。……けど、待ち合わせの時間はそんなに遅くないようなこと言ってたんだろ? ならハルキシと一緒に食事するわけでもないんだろうから、このくらいの時間帯で見つかってもよさそうだよな」

二人で歌舞伎町を南下していくと、何度目かの大通りに出た。人通りが多くてにぎやかで、こんな中で人探しをするなんて無謀もいいところだった。

神くんは歩道沿いに折れ、再度ビルの間の道へ入っていく。

その道は、ついさっきも通ったところだった。

「神くん、ここ何度も通ってるけど、なにか心当たりがあるの?」

「いや。なんだか、こんな感じのところにいそうな気がしないか、あいつら? 街並みといい、ビルの雰囲気といい」

……。つまり、

「勘なんだね……」

「ああ。でもいた」

「いた?」

「そ」

「なにが?」

「尋ね人」

そこでようやく、私ははっとして前を見た。

いた。

間違いない。

十メートルくらい向こうに、沖田くんがいる。カラーシャツにデニムでラフにしているけれど、姿勢がいいせいか、周りの誰よりも折り目正しそうに見える。

沖田くんはこっちを向いているので、見つからないように、私たち二人はそっと路地に身を隠す。

沖田くんの向かいには、白い――というより、銀髪――の長い髪の人物がいて、二人は気さくに会話しているようだった。

「危うく、バッタリ顔合わせるところだったな」

神くんが、流れてもいない額の汗をぬぐうしぐさを見せた。

遠目に見る沖田くんの表情は、少しずつ曇っていくように見えた。困惑しているみたいにも見える。

「沖田くん、顔色悪いね……」

「そりゃ、なんでおれの学校に売春の情報なんて流したんだ? って訊いてるんだろうからな。あまり楽しい話ではないんだろ」

その時、ハルキシさんの背後に、とことこと歩み寄っていく人影が見えた。黒いTシャツを着た、中肉中背の短髪の男性だった。

男性は、沖田くんと話しているハルキシさんの肩をとんとんと叩き、なにか耳打ちした。