一学期の、終業式が終わった。

幸い、沖田くんの仕事についての噂はあれ以降すぐに鎮静化して、学校側が問題にするようなこともなかった。実は、それをこそ、私や神くんは恐れていたのだけど。

沖田くんは、「平町が自分から噂を打ち消しに動いてくれたんだ。だいぶ周りからの信頼を損ねることになっただろうが、まあこれは、自業自得だと思ってもらうしかないな」

とため息をついていた。

式が終わったお昼前、沖田くん、神くん、私の三人は、また屋上に集まっていた。

今日はやや涼しいものの、学校中の生徒が早々に家に帰っていくせいもあって、この間と同じように、私たち以外にはここに人はいない

「んで瀬那、あのハルキシってのはまだ見つからねえのか」

「こっちからいくら連絡しても全然だめだな。っていうかミー、お前ハルキシのこととか、衿ノ宮にあんまり色々言うなよな。迷惑かけるかもだろ」

「それなら瀬那が守ってやれよ。エリーは貴重なお前の理解者だぞ。お前、女子が言い寄ってきてもつれなくするから、人気はあるのに評判悪いじゃねえか」

「どんな状態だそれは。別に人気なんて欲しかったことないわ」

「は、贅沢者が。とはいえ、瀬那の身辺は少しばかり危なっかしいこともあるのは確かだ。エリーは、気をつけながら過ごしてくれ」

「うん。沖田くん、私迷惑だなんて思ってないよ。どっちかっていうと、私が変に首を突っ込んで迷惑かけるんじゃないかっていう方が心配。……デリケートなところだと思うから」

沖田くんが苦笑して、

「ああ。確かに、極端な世界でのお仕事だったからなあ」

「だった? 瀬那、お前足洗うのか?」

「別に、やりたくてやってたわけじゃないからな。……ずいぶん出勤してないから、『店』からはやる気がないならやめろ的な圧がちょっとかかってきてる。なにも言わずにトンじまうキャストも多いんで、おれはまだましな方らしいけど」

「変なところで律儀だな、お前は。未成年にそんなことさせるようなところによ」

「店って言っても寄り合い所帯みたいなものだし、こっちも無理聞いてもらってたんだ、お互い様だよ。……いやだから、こういう話を衿ノ宮には聞かせないよう気を遣おうぜってことなんだよ!」

少し生々しい方へ話が流れて行っていたので、知らず肩に力が入っていた私の様子を見て、沖田くんがそう言ってくれる。

こんなにも彼が私を気にかけてくれることが嬉しかった。つい先日まではただ同じ教室に通っているという共通点しかなかったことを思うと、夢みたいだった。

一学期の、終業式が終わった。

幸い、沖田くんの仕事についての噂はあれ以降すぐに鎮静化して、学校側が問題にするようなこともなかった。実は、それをこそ、私や神くんは恐れていたのだけど。

沖田くんは、

「平町が自分から噂を打ち消しに動いてくれたんだ。だいぶ周りからの信頼を損ねることになっただろうが、まあこれは、自業自得だと思ってもらうしかないな」

とため息をついていた。

式が終わったお昼前、沖田くん、神くん、私の三人は、また屋上に集まっていた。

今日はやや涼しいものの、学校中の生徒が早々に家に帰っていくせいもあって、この間と同じように、私たち以外にはここに人はいない

「んで瀬那、あのハルキシってのはまだ見つからねえのか」

「こっちからいくら連絡しても全然だめだな。っていうかミー、お前ハルキシのこととか、衿ノ宮にあんまり色々言うなよな。迷惑かけるかもだろ」

「それなら瀬那が守ってやれよ。エリーは貴重なお前の理解者だぞ。お前、女子が言い寄ってきてもつれなくするから、人気はあるのに評判悪いじゃねえか」

「どんな状態だそれは。別に人気なんて欲しかったことないわ」

「は、贅沢者が。とはいえ、瀬那の身辺は少しばかり危なっかしいこともあるのは確かだ。エリーは、気をつけながら過ごしてくれ」

「うん。沖田くん、私迷惑だなんて思ってないよ。どっちかっていうと、私が変に首を突っ込んで迷惑かけるんじゃないかっていう方が心配。……デリケートなところだと思うから」

沖田くんが苦笑して、

「ああ。確かに、極端な世界でのお仕事だったからなあ」

「だった? 瀬那、お前足洗うのか?」

「別に、やりたくてやってたわけじゃないからな。……ずいぶん出勤してないから、『店』からはやる気がないならやめろ的な圧がちょっとかかってきてる。なにも言わずにトンじまうキャストも多いんで、おれはまだましな方らしいけど」

「変なところで律儀だな、お前は。未成年にそんなことさせるようなところによ」

「店って言っても寄り合い所帯みたいなものだし、こっちも無理聞いてもらってたんだ、お互い様だよ。……いやだから、こういう話を衿ノ宮には聞かせないよう気を遣おうぜってことなんだよ!」

少し生々しい方へ話が流れて行っていたので、知らず肩に力が入っていた私の様子を見て、沖田くんがそう言ってくれる。

こんなにも彼が私を気にかけてくれることが嬉しかった。つい先日まではただ同じ教室に通っているという共通点しかなかったことを思うと、夢みたいだった。

「そういや瀬那には訊いたことなかったな。そもそも、なんであんな仕事始めたんだ?」

まるでなんの気なしのような神くんの言葉に、私の肩が、再びこわばった。

「ミーお前、言ってる傍から……。いや、いい機会か。といっても、そんな大層な話じゃないんだよ。誤解しないでほしいのは、遊ぶ金ほしさでもないし、欲求不満を金もらって晴らそうとしたわけでもない――」

「そ、そんなこと思ってないよ!」

思わず大声が出てしまった私に、沖田くんと神くんが目をぱちくりとさせる。

「エリーはいいやつだなあ」

「まったくだ。衿ノ宮は尊い」

なぜか揃って腕組みしてかぶりを振っている二人に、私はいたたまれなくなってしまった。

「普通だってば、普通! 沖田くん、話しづらいなら私席外すから……」

「ああいや、瀬那もエリーも、悪い。おれこそ考えなしに質問しちまった。ま、いずれの楽しみにとっておこうか」

「そんなこと言われるとハードルが上がるじゃないかよ……。ともあれ今日でようやく一学期終わりだ、衿ノ宮、どこ行きたいか考えておいてくれよな。柏でなくても、池袋とか渋谷でもいいんだから」

どきんと胸が大きくなる。

後ろめたいことでもなんでもないはずなのに、神くんに聞かれていると、まるで秘密の箱を目の前で開けられたような感覚になって、心臓に悪い。

「え、なんだお前ら、二人で出かけるのか? くそ、たまには混ぜろよな。じゃ、そろそろ行くか」

けらけらと笑いながら、男子二人は立ち上がって腰をはたく。

そんなに長い時間いたわけじゃないのに、しっかりと用意してくれたパラソル――相変わらず出どころ不明の――を、神くんが片づけてくれた。

二人はそのまま帰るというので、私は、忘れ物がないかもう一度見ておこうと教室へ戻った。

すると、カナちゃん、ヨウコ、奥野さんの三人がまだ残っておしゃべりしていた。

「あれ、燈、お帰り。なに、忘れ物?」

「ううん、それをしないようにって見にきただけ」

奥野さんとは、この間以来少し気まずかったけれど、あの後すぐに謝りにきてくれたので、ほとんど元通りに接することができている。

今も、カナちゃんとヨウコの間から目礼してくれた。私も、小さく会釈を返す。

そこへ、カナちゃんがすいと歩み出てきた。