「本当……!?」

素直に嬉しそうにしてくれる燈を見ていると、瀬那の胸の奥がやわらかく温もる。

ここで燈を返してしまうのも寂しい気がしたし、かといって一人暮らしの男の家にこれ以上入れておきたくないし、ということで提案してみたのだが。

「せっかくショッピングモールとかあるのに、おれ一人だとあんまり足が向かないからな。衿ノ宮は?」

「私はたまに。でも、言われてみれば近くで有名なのに行ってないお店とか施設とか、結構ある気がする……」

「ちょうど、服とか買おうと思ってたんだ。歩きで行ける範囲で行こうぜ。もし帰りに疲れたら、駅までのタクシー代くらい出せるから」

「い、いいよ! 出かける度に私にお金使わせちゃうじゃない!? ちゃんと時間の計算と体力配分する!」

瀬那としては、燈のための出費であれば、正直苦にはならないのだが。気負わせるわけにもいかないので、自分の方こそ度が過ぎないように気をつけようと自戒した。

「……もう、すぐに夏休みだよな」

クローゼットから薄手のアウターを取り出しながら、瀬那が呟くように言う。

「そうだね?」

「衿ノ宮の都合がいい時に、こうして出かけないか?」

燈は一瞬きょとんとしてから、

「私と? いいの?」

「おれは、誰かと一緒にどこかに行くって言ってもミーくらいだし。あいつとだと、行くところが限られてくるんだよな。たとえば、あけぼのやま農業公園なんて絶対行かないし」

その公園はやや郊外にあり、自然の景観や花畑で名高い。確かに男子二人では行かないだろうな、と燈は納得してうなずく。

「私はいつでも大丈夫だよ。行こう行こう。沖田くんの行きたいところ、どこでも」

「サンキュ」

簡単に布団や食器を片づけると、二人は家を出た。

二人とも表には出さなかったが、あいまいに約束した夏の予定に、こっそりと胸を高鳴らせていたのは同じだった。

<interlude> おわり