恋人同士でもないのにこんなものを見る機会というのは、地球上でどれくらいの人に与えられているものなんだろう。私に安心しきって意識を手放している、好きな人の寝顔。

つい、沖田くんの仕事のことを考える。

沖田くんのお客は、彼のこの寝顔を見たのだろうか。

全員ではないだろう。どんなお客さんなら見ることができて、どんなお客さんなら見ることができないのだろう。

こうしていると、普通の男子高校生にしか見えない。

それでも、シャツから覗くうなじや、二の腕、白い足首……そうしたパーツの一つ一つが、ひどくなまめかしい。

最近はともかく、少し前は、見知らぬ男の人を相手に、この沖田くんがホテルで、服を脱いで……

そして……

ぞく、とおかしな感覚が背筋に走った。熱い悪寒、としか言えないような、気持ちよくはないのに嫌ではない、奇妙な感じ。

私に与えられた三時間。その間ずっと、こうして沖田くんを見下ろしていたい、強烈な欲求にかられた。

でも、それはだめだ。きっと、沖田くんは、そんなことをされたくない。――こんな目で見られたいはずがない。

それは分かっているのに、顔に落ちたまつ毛の陰に、すっかり脱力した肩口に、いちいち目が吸い寄せられてしまう。

顔が熱い。呼吸が早くなる。なぜだか、その場で飛び跳ねたくなった。

頭の中で、誰かがうわーうわーと騒いでいる。誰かというか、私が。

私は寝室を出ると、静かにドアを閉めた。

リビングにある一人用のソファを借りて、体を沈み込ませる。

もう勝手に寝顔を見たりしない。

だから、同じ屋根の下にいるくらいはいいよね。

不思議ににやけてしまう頬を、誰も見ていないのに両手で隠しながら、私はそれからの三時間、ずっと沖田くんのことを考えていた。