コンテストみたいなのって、結構あるんだよね。一度くらい、ちゃんと作品として書いてみようかな。

そう呟いて寝返りを打っても、実行に移せたことはなかった。BLの投稿サイトに、沖田くんの登場しないオリジナル作品を、さほど閲覧数が増えないのを承知で載せてみるのがせいぜいだった。

もし本気でお話を書いてみる機会があったら、その時は、私は沖田くんのことしか書きたくない。

そして、私が書いた沖田くんは、誰にも見てほしくなかった。

もちろん、一番は、沖田くん本人に、決して。



翌日の火曜日。

この日は、教室の中で、仲のいい女子メンバーと机を寄せ合ってお弁当を食べた。

沖田くんは、昼休みになったらすぐに、ふいっと姿を消すのが通例だった。この日も、チャイムが鳴って五分後にはもういなくなっている。

「ちょっと(あかり)、最近沖田くんとどうしたのよ、なにがあったのよ」と、カナちゃんが正面からずいと身を乗り出して訊いてきた。

私を下の名前で呼ぶほど親しい間柄の人間は、このクラスに二三人しかいない。

「さ、最近っていうか、昨日だけたまたま」

別の女子――左手にいた奥野さんも、曲げわっぱの渋いお弁当箱のふたを開けつつ、

「たまたまで、沖田くんが女子を教室から連れ出すことはないでしょう。ほら、白状しなさい。なにがあったのか。もしかして、一昨日の日曜日? 二人で会ったりしてたの?」

ずばりと言われて、私はお箸を取り落としそうになり、慌ててわたわたと持ち直す。その様子を見て、さらにもう一人、右にいたヨウコも加わってきた。

「うわー、図星? あたしたちの知らない間に、なんたること……」

「ち、違うよ! そんなんじゃない!」

確か上手な嘘のつき方というのは、少しだけ本当のことを混ぜるとかだったと思う。けれどいざその場になると、そんな気の利いたことは私にはできそうになかった。

とにかく百パーセント否定しておいて、後で沖田くんと口裏を合わせよう。

カナちゃんが、グリーンピースを器用に箸先で一粒ずつつまみながら、あ、と声を出した。

「沖田くんといえば、あたし先生から沖田くんあての伝言預かってたんだよね。昼休み中に伝えてって言われたんだけど、逃がしちゃった。まずいなー。燈、沖田くんに連絡できる?」

「あ、うん。でもすぐに既読になるか分からないよ。昼休みの間はつかまらないかも」

私はスマートフォンを取り出して、アプリを立ち上げる。

ふっと画面から顔を上げて、沖田くんになんと伝えればいいのかカナちゃんに訊こうとした時、私を囲む三人がぽかんと口を開けていることに気づく。

「……え、え? なに?」

カナちゃんがグリーンピースを宙に据え置いたまま、

「燈、それ、クラスメイトのグループとかじゃないよね? 沖田くんと個人的にアカウント交換してるんじゃん。沖田くんとそんなんなってる人、うちのクラスにそうそういないんじゃないの? しかも女子で」

「なっ!?」

は、はめられた!

「やっぱり特別に仲良くなってる! さあ、吐きなさい! どんな経緯!?」

「ずるいそんなの!」

豊四季(とよしき)第三中学の女孔明(こうめい)とは、この八木(やぎ)カナのことよ! さあキリキリ吐くッ!」

「い、意味はよく分からないけど、すごく、してやられた! って感じがする!」

「たっぷり追及するために、わざわざ昼休みまで待ったんだから! さあさあ――って、あ、あれ、沖田くん!?」

目を見開いたカナにつられて、私たちはぶんと首を巡らせて教室のドアを見た。そこには、空になっているのだろうお弁当箱の包みを下げた沖田くんが、きょとんとこちらを見ていた。

「え? おう。なにか用か?」

その受け答えは、あまりにも自然だった。男子はもちろん、そして女子だと余計に、沖田くんとは同じクラスの人とほとんど会話することが今までなかったのに。

でも、これがきっと彼の素なのだ。そう思える私だけが、四人の中で一人だけ冷静にいられた。

沖田くんが、邪気のない顔でつかつかとこちらへくる。

用なんてあるはずのないカナは、軽くパニックに陥りながら、あたふたと左右を見回した。

確かに、「ここにおります衿ノ宮燈が、沖田くんと急に仲良くなっているのが気になって、ことのあらましを吐かせようとしてました」とは、なかなか言いづらいだろう。

どうしたものかなと思っていると、沖田くんが私たちの顔を順に見渡して、にやりとしながら言った。

「もしかして、悪口言ってた?」