帰宅部の私は、まっすぐに昇降口へ。そのまま校門を出て、駅へ。クラスで仲のいい子たちはみんな部活に入っていて、帰路を誰かと共にしたことはない。

自分の帰り道のことも、誰かの放課後のことも、今まで気にしたことはなかった。それが今日は違った。

校門を出ようとして、足が止まる。

つい首を巡らせて、知った顔を探してしまった。

見つけたところでどうにもならない。

平日だけど、今日も歌舞伎町へ行くの? なんて訊けるわけがない。

そもそも、……沖田くんはどうしてああいうことをしているんだろう。

「あれ、衿ノ宮」

「きゃあっ!?」

驚いたあまり、校門から車道へ飛び出しそうになった私の腕を、細身で筋張った男子の手がつかんだ。

「うお、あぶな。っておれのせいか。ごめん、大丈夫?」

「だ、大丈夫大丈夫。沖田くんも今帰り?」

「そ。知ってるだろ、帰宅部だって」

そう言って沖田くんは、にやりと笑った。

本当は、こんなに表情豊かな人なんだ。こうしていると、私にとって特別な男子も、ごく普通の高校生だった。

ふっと、沖田くんが私の横に来た。小さい声で、

「今日はこのまま帰るんだ。衿ノ宮、今、おれのことを頭の中でいろいろ考えてただろう」

お見通し。いや、それは考えるでしょう。

「駅まで一緒に行こうぜ。衿ノ宮はどっち方面?」

「えっ、いいの?」

「おれが聞きたいよ。これでも結構、勇気出して誘ってるんだからな。一応年頃の男子が女子に声かけてるわけだから。おれとしては、それくらいの親しさはあると思っていいかな、と考えてるわけだけど」

「あ、ある。沖田くんさえよければ、それくらいは」

男子と帰るなんて初めてだけど。

すると、沖田くんはまた小声になって、

「心配しなくても、衿ノ宮に変なちょっかい出そうとかはしてないからな。安心してくれ。おれ、男が好きだから」

「そう……なんだ」

はっきり言葉にされると、沖田くんのその発言がぐるぐると頭の中に舞う。

「おれが、ノンケであんなことしてると思った? 気軽に金が稼げると思ってああいうの始めるノンケのやつ、おれの周りでも定期的に出てくるんだけど、結局続かないんだよな。単純に嫌気が差したり、思わぬ影響が精神面に出たりして、気がつくといなくなってるんだ」