俺は結局あのまま高校に戻ることはできなかったけれど、先生たちのサポートもあって卒業式だけは息をひそめるようにしながら参加することができた。

もちろん勉強だけは諦めなかったから、東山国際大学の受験だけはしっかりとしてきたけれど。

合格発表はパソコンで見れることになっていて、ついに今日はその合格発表の日。

そのせいか、いつも以上に朝から腹の調子が悪い。


「ユウヤ、そろそろね。お母さんの方が緊張しちゃってる」


母さんはそう早口に言いながらリビングをうろうろと歩き回っている。

マサトももちろん東山国際大学を受験しているらしいけれど、俺も同じ大学を受験していることは知らないと思うし、俺自身もマサトが合格したかどうかは知らない。

壁にかかった時計の秒針が今日は耳ざわりなほどに、うるさい。


「時間になった。母さん結果を見よう」


俺のパソコンに受験番号を打ち込んでいく指先が、小さく震えている。



『合格』



画面に照らし出されたふた文字が俺の目に飛び込んできて、瞬きするのを忘れてしまいそうになる。


「よっしゃー。母さん、合格したよ」


隣に座っていた母の瞳にはキラキラと光るものがあって、こぼれ落ちないように必死に目を見開いているのがわかる。


「おめでとう。ユウヤ、本当におめでとう。本当によく頑張ったわね」


俺が父さんに合格のメールを送ろうと携帯を手にした瞬間、画面が明るく光り「マサト」という文字が照らし出される。

本当はすぐにでも会いたかったのに、自分への情けなさから勝手に避け続けていたマサト。

唇をギュッと噛み締めて、メールを開いてみる。


『俺、東山国際大学に合格した。ユウヤに1番に伝えたくて。なかなか会えなかったけど、俺はいつまでもユウヤの味方だから』



マサトも合格したんだ。


俺の中で熱いものが込み上げてきて、視界がぐにゃりと歪んでいく。

それと同時に「俺も報告しなきゃ」っていう思いに急かされて、急いで返信を打った。



『俺も実は東山国際大学に合格したんだ。今までなにも言わずにごめん。あと、高校では毎日家に来てくれてありがとう。すごい嬉しかった。俺、大学はきちんと行くから、また今までどおり仲良くしてほしい』



再び携帯の画面が明るくなるのは早かった。



『おめでとう。当たり前じゃん。ユウヤは俺の大切な存在なんだから。大学でもよろしく。また一緒に遊んだりしような』



これからの俺は、もう大丈夫。



俺の頬からは一筋の光り輝くものがゆっくりと流れ落ちていった。