今日もカタンとポストの扉が開く音がした。

俺は夕方6時になると2階の窓から外を眺めるというのが、不登校になってからの日課になっている。



だって今日もいつもみたいに持ってきてくれるかどうか、気になってしまうから・・・・・・。


学校に行かなくなってから毎日、マサトが俺の家に来てくれるようになった。

プリントとか時間割とか、そういった連絡事項をポストに入れてくれるために。

近所だから学校の先生に頼まれて持ってきてくれているだけかもしれないけれど、それでも俺は嬉しかったし繋がりを感じることができて安心した。

もちろん受験生だから本当は忙しいはずだし、もしかしたら迷惑がられているかもしれないっていう思いもあって、マサトにはすごく申し訳なくも思っているけれど。

マサトは毎日ポストにプリントを入れたあと、家のチャイムを鳴らしてしばらく玄関の前に立っている。

本当はすぐにでも外に出て直接お礼を言いたけれど、こんな情けない姿を見られるのが恥ずかしくて結局、毎日のように居留守をつかってしまう。

俺が学校にさえ行けばマサトはこうやってプリントを持ってくる手間が省けるし、そもそも俺のために時間割を書き写したりしなくても済む。

俺だってこんな生活は早く抜け出したいって思いはするけれど、学校に行ってまた前みたいに嫌がらせを受けるかもしれないって思うと、どうしても一歩を踏み出す勇気が出ない。



「ユウヤ、大学はどうするの? もう少しで受験よ」


母さんが台所で唐揚げを作りながら、一瞬俺の方を見て心配そうな口調で聞いてきた。

大学の話をするのは家の中でなんとなくタブーな雰囲気になっていたから、こうやって直接聞いてくるのははじめて。

きっとずっと気になっていたのかもしれない。



「俺、受験する。一応勉強はしてるつもり」



俺ははっきりと断言するように自分の意思を伝えた。



「本当に大丈夫なの? 今も学校に行けてないし・・・・・・。どこ受験するつもりなの?」



母さんの驚きと戸惑いの気持ちが言葉にのせられて、俺に一瞬で伝わってくる。

俺は大きく息を吸い込むと、ふーっと全て吐ききると母さんの方に姿勢を正し直した。



「東山国際大学。俺、そこに行きたい」



母さんの箸を持つ右手の動きがぴたりと止まった。



「勉強は今、頑張ってる。学校には行けてないけれど、きちんと大学には合格してみせるから。高校を卒業できる程度の出席日数も足りてる。だから俺、絶対に合格してみせる」



俺がどうして東山国際大学を目指しているのかは言わなかった。

言ったところで母さんには理解してもらえないだろうって思ったから。

だけど、母さんは疲れ切っていた表情を緩めて、自然な笑みをゆっくりと浮かべた。



「そこの大学、レベルも高いから難しいと思うけど、ユウヤが本気なら一生懸命頑張りなさい。お母さん応援してるから」



俺は大きく首をたてに振って笑顔を見せた。



大丈夫、俺には絶対に合格したい理由がはっきりとあるんだから。

今の生活からも必ず抜け出してみせる。