「早くどうにかしないと・・・・・・」
俺は湿っぽい布団から頭を少し出すと、カーテンをほんのちょっとだけ開けて外を覗いてみた。
窓から差し込んでくる太陽の日差しが眩しくて、思わず目を細めてしまう。
この薄汚れたクリーム色のカーテンの向こうに見えるのは、毎日変わることのない見慣れた風景。
だけどやっぱり今日もいつもみたいに、斜め前にあるマサトの家が目に入る。
そうして思い出す。10年前のまだ幼かった頃の懐かしい記憶を。
今まで俺はこのベッドの上で何度も、何度も思い出してきた。
保育園に行きたくなくて泣きじゃくる俺の手をいつも引っ張って、バスに乗せてくれていたマサト。
少し強引だったけれど「ぼくがついてるから安心して」って言ってくれる言葉は魔法みたいで、その言葉を聞くと「ひとりじゃない」って思えて安心することができた。
だからわざと大声で泣いてマサトを困らせたこともあったけれど、それでもマサトは嫌な顔を全く見せないで、俺の手をしっかり握ると「大丈夫だよ」って言ってくれて。
それが本当に嬉しくて「これからもずっとマサトくんと一緒にいたい」って思っていた。
トントントン・・・・・・。
「部屋に入るからねーーー。ユウヤ今日も学校はお休みするの? どうするの?」
俺を気遣ってなのか、遠慮がちな口調で母さんが話しかけてきた。
もう何ヶ月も毎日学校に行っていないから、母さんは”今日も”っていう言い方をする。
怒ってはいないし、穏やかな口調だけれど、そういった些細なところに反応してしまう俺は、自分の思っている以上に焦っているんだと思う。
「ごめん、今日も行けない。腹がいたい。明日は行くようにするから、今日は休むことにする」
「またお腹がいたいの? 毎日同じこと言ってるじゃない。じゃあ学校に連絡だけお母さんがしておくから。お昼ごはんはリビングのテーブルの上にお弁当を置いてるから、お腹減ったら食べといて」
「ごめん・・・・・・。ありがとう」
「明日こそはきちんと学校くらい行きなさいね。もう来年からは大学生なんだから」
大学生・・・・・・。
その言葉が俺の胸をギュッと締め付けて、頬の内側を少し噛んだ。
そう、今は高校3年生の受験生。
みんなは最後の追い込みをかけて受験勉強に必死になっているのに、俺は学校にも行かず不登校状態。
焦らないはずがなかった。
だけど学校に行くとあいつらが待っているって思うと、毎朝お腹がギュルギュルって痛くなってしまう。
前日の夜までは「明日こそちゃんと行こう」って思っているのに、朝になってみると毎日激しい腹痛が俺を襲ってきて動けなくなってしまう。
仮病なんかじゃない。本当に痛い。
母さんはあまりにも都合よく俺が朝になるたびに腹痛を起こすから、嘘をついているんじゃないかって疑っているみたいで、なんだかそのたびに悲しくなってしまう。
嘘なんかついていないのに、そんな理不尽なことで疑われてしまうなんて。
だけど、心配してくれているのは言葉にしなくても、雰囲気から胸が締め付けられるほどに伝わってくる。
だから俺は母さんをこれ以上心配をかけないためにも、みんなからも遅れを取らないようにするためにも、家で一生懸命勉強だけはするようにした。
テレビゲームも、漫画も、スマホも、俺の楽しみは全てずっと我慢している。
今は不登校かもしれないけれど、みんなみたいに普通の生活を送れていないかもしれないけれど。
そんな俺にも絶対に行きたいって思う大学がやっと見つかったから。
東山国際大学。
そんなのお前には無理だよって言われるかもしれないけれど、俺は必ず合格してみせるって、そう心に誓っている。
だって、きみと一緒の大学に行きたいから。
きみのそばに少しでもいたいって思うから。
俺は湿っぽい布団から頭を少し出すと、カーテンをほんのちょっとだけ開けて外を覗いてみた。
窓から差し込んでくる太陽の日差しが眩しくて、思わず目を細めてしまう。
この薄汚れたクリーム色のカーテンの向こうに見えるのは、毎日変わることのない見慣れた風景。
だけどやっぱり今日もいつもみたいに、斜め前にあるマサトの家が目に入る。
そうして思い出す。10年前のまだ幼かった頃の懐かしい記憶を。
今まで俺はこのベッドの上で何度も、何度も思い出してきた。
保育園に行きたくなくて泣きじゃくる俺の手をいつも引っ張って、バスに乗せてくれていたマサト。
少し強引だったけれど「ぼくがついてるから安心して」って言ってくれる言葉は魔法みたいで、その言葉を聞くと「ひとりじゃない」って思えて安心することができた。
だからわざと大声で泣いてマサトを困らせたこともあったけれど、それでもマサトは嫌な顔を全く見せないで、俺の手をしっかり握ると「大丈夫だよ」って言ってくれて。
それが本当に嬉しくて「これからもずっとマサトくんと一緒にいたい」って思っていた。
トントントン・・・・・・。
「部屋に入るからねーーー。ユウヤ今日も学校はお休みするの? どうするの?」
俺を気遣ってなのか、遠慮がちな口調で母さんが話しかけてきた。
もう何ヶ月も毎日学校に行っていないから、母さんは”今日も”っていう言い方をする。
怒ってはいないし、穏やかな口調だけれど、そういった些細なところに反応してしまう俺は、自分の思っている以上に焦っているんだと思う。
「ごめん、今日も行けない。腹がいたい。明日は行くようにするから、今日は休むことにする」
「またお腹がいたいの? 毎日同じこと言ってるじゃない。じゃあ学校に連絡だけお母さんがしておくから。お昼ごはんはリビングのテーブルの上にお弁当を置いてるから、お腹減ったら食べといて」
「ごめん・・・・・・。ありがとう」
「明日こそはきちんと学校くらい行きなさいね。もう来年からは大学生なんだから」
大学生・・・・・・。
その言葉が俺の胸をギュッと締め付けて、頬の内側を少し噛んだ。
そう、今は高校3年生の受験生。
みんなは最後の追い込みをかけて受験勉強に必死になっているのに、俺は学校にも行かず不登校状態。
焦らないはずがなかった。
だけど学校に行くとあいつらが待っているって思うと、毎朝お腹がギュルギュルって痛くなってしまう。
前日の夜までは「明日こそちゃんと行こう」って思っているのに、朝になってみると毎日激しい腹痛が俺を襲ってきて動けなくなってしまう。
仮病なんかじゃない。本当に痛い。
母さんはあまりにも都合よく俺が朝になるたびに腹痛を起こすから、嘘をついているんじゃないかって疑っているみたいで、なんだかそのたびに悲しくなってしまう。
嘘なんかついていないのに、そんな理不尽なことで疑われてしまうなんて。
だけど、心配してくれているのは言葉にしなくても、雰囲気から胸が締め付けられるほどに伝わってくる。
だから俺は母さんをこれ以上心配をかけないためにも、みんなからも遅れを取らないようにするためにも、家で一生懸命勉強だけはするようにした。
テレビゲームも、漫画も、スマホも、俺の楽しみは全てずっと我慢している。
今は不登校かもしれないけれど、みんなみたいに普通の生活を送れていないかもしれないけれど。
そんな俺にも絶対に行きたいって思う大学がやっと見つかったから。
東山国際大学。
そんなのお前には無理だよって言われるかもしれないけれど、俺は必ず合格してみせるって、そう心に誓っている。
だって、きみと一緒の大学に行きたいから。
きみのそばに少しでもいたいって思うから。