謝らないでほしい。すべては、私が圭斗君のことを信じられなかったことが悪いのだ。全く彼は悪いことをしていない。私が傷つけてしまった。

 その事実が昔を思い出して、胸が苦しくなった。でも、頑張ってその記憶を一時的に頭から消す。
 
 そして、私は気まずい沈黙に身を任せた。

 果たして、それが正解なのかわからない。彼が何を考えているか分かれば、何か変わるのだろうか。

 意を決して、彼に話しかける。自分が何を言いたいのかもわからないまま。

 でも、何か言葉を紡ぎたい私を止める人は、いなかった。

「圭斗君はさ、たぶん優しすぎると思うんだよね。普通っていっても、人によって違うからあれだけど、一般論?的にはさ、たぶん自分の好きな人が恋人で、信じられないって言われたらへこむと思うんだよね。君がへこんでるかはわからないからこんなことを言ってしまうと思うんだよね。でも、私にはすごく不思議でしょうがない。そして、それと同時にとてえるもなく申し訳なくなる。なんで君は、そんなに優しいんだ、、」


 しばし沈黙が続く。圭斗君は長考しているようだ。自分の言葉に自信が無くなって話しかけたい。けど。そんなことできるわけない。どんどん時間は過ぎていく。

 それを彼が破ったとき、私は心底驚くことになった。

「俺はそんな優しい人間じゃないよ。普通に人を傷つけることだってあるし、むかつくことだってある。でも、そんな自分をなくしてでも美優さんといるときは、いい子になろうとする。理由は簡単。美優さんのことが好きだから。好きだから素直に感情を出すし、大事にしたいと思う。もちろん、美優さんに信じるのが怖い宣言された時はへこんだよね。でも、それでも俺は、美優さんに寄り添いたいなって思う。これはただの俺の上っ面。だから、たぶん信じきれない部分がある気がする。―ってごめん。自分でも何言いたいかわかんないや。質問にも答えられてなかったらごめん」
「大丈夫」

 私がそういうだけで、彼は融けそうなほどの笑顔で笑った。それが私には新鮮でとてもとても嬉しかった。

「今日はごめんね、君のこと傷つけたよね」
「大丈夫。だって、美優さんの本音が聞けたもん。このまま疑われ続けるよりは全然いい。だから謝らないで」

 ありがとう、そう言いたかったけど、何となくお礼を声に出すのは違う気がして胸のうちにとどめておいた。

 ちょうど予鈴が鳴る。この学校の昼休みが長くてよかった。

「チャイムも鳴ったし、戻ろうか」
「うん」

 そういって私たちはそれぞれの授業が行われるクラスへとあわただしく戻って行った。

 本鈴が鳴る。授業には間に合った。