少し歩いて、空き部屋が見つかった。誰も来ないことを確認して二人で入る。
 しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのは圭斗君だった。

「美優さん、俺に何か用あったんですか?珍しいですよね」

 ああ、やっぱり圭斗君にとって私が彼を訪ねるのは珍しいらしい。反省だ。

「私は、圭斗君に聞きたいことがあってきた。どんな内容でもちゃんと聞いてくれる?」
「もちろん。彼女の話を聞かないクズ彼氏になりたくはないんで」
「そっか。ありがとう」

 私は、圭斗君と目を合わせて、一呼吸。それから、私は話し始めた。

「圭斗君はさ、私といて楽しい?」
「楽しいに決まってる。だって好きな人と一緒にいられるんだよ?嬉しくないわけがないじゃん」
「そっか。でもね、私はいつも思うんだ。それが『嘘』なんじゃないかって」
「え?」
「ごめんね。君があまりにも純粋すぎて疑問に思ってしまうんだ。君の言葉を信じていいのか。変な話だよね。純粋な子の言葉には、嘘偽りがないことが多くて、みんなから信頼される。なのに私は疑ってしまうんだ。純粋な子ほど、悪意を隠すのがうまい。圭斗君にそれがないと思っていても、どうしても考えてしまってね」

 そこで私は言葉を切った。天使が通ろうとする。自分で言った言葉なのに、自分で言っていないような気がして。そして、この言葉で圭斗君を傷つけてしまったような気がして。

 顔に出ていたのだろうか。圭斗君が沈黙を破った。

「美優さんに、そう思われていたのはやっぱ悲しいな。でも、何にも理由がなくてそんなこと言うわけでは無いでしょ?気になるけど、美優さんが言いたくなかったら聞かない。その代わり、これから俺の言葉に嘘がないことを信じられるようになってほしい、そう思うかな。自分でも思ったより動揺しててうまい言葉が出てこないや、ごめんね」

 そんな、圭斗君が謝ることではない。でも、私の声は出そうと思ってもうまく出なくて、震えてしまった。

「謝らないで、こっちこそごめん、なさい」

 私は自分でどんな気持ちになったのかわからない。だからどんな顔をしていたのかもわからないが、圭斗君がとても傷ついた顔をしていた。不安になって訊ねた。声は、たぶん元通りに出るはず。

「なんでそんな傷ついた顔しているの?私何か気に障ることを言っちゃってた、、?」
「ううん、全然大丈夫。美優さんのせいじゃないよ」
「じゃあなんで、そんな傷つているの、、?」
「俺、そんな顔してるの?」
「うん、すごく」

 そしたら彼は、悲しそうな顔をした。

「そっか、ごめんね」