「圭斗君との繋がりが欲しいからってそーゆーの言わないでいただけるとありがたいです。あと、話したことないような方に話そうとする気はありません」

 しーん。教室の空気が変わる。やってしまった。絶対やらかした。明日から席が無くなったり、靴がとられたりするやつ(要するにいじめ)だ。そんな私が作った気まずい雰囲気を破ったのは圭斗君の笑い声だった。
「あっはははは!最高。俺の彼女、かっこいいでしょ?あと、俺も嫌だな。自分の彼女が君らの損得で態度を変えられるの。ふっつーに気持ち悪い。ってことで、もうやめてね?」

 圭斗君がそういうと、だれも口を開けなかった。それが気に食わなかったのか彼は、もう一回言った。

「ね?」

 圧がすごい。それのおかげか、みんな頷いていた。それを見て満足そうな彼は、身を翻して自分の教室に戻って行った。

 それを見届けていた私は、あることに気が付く。お礼を言っていない。どうしよう。こういうのは文面で言っていいのだろうか。やっぱり直接、顔を合わせて言った方がいいのだろうか。

 そんなことを考えていると、始業のチャイムが鳴った。あぁ、言えなかった。でも、そのチャイムで決心できた。お礼は直接、顔を見て伝えようと。そう思って受ける一時間の授業は、とても長く、忌々しかった。

 やっと授業が終わって、休み時間になった。すぐに圭斗君の教室へ向かう。他クラスの雰囲気は慣れなくて不安だった。

「すみま、せん。藤さん、い、ます、か?」

 詰まりながらドア付近にいた圭斗君のクラスメイトに声をかける。

「あーいないよ。それよりさ、君何組?かわいいね。今日の放課後俺と飯でも行かない?」

 は?無理。でも、初めての人で、圭斗君のクラスメイトの人だ。朝みたいには言えない。どうしよう。そもそも、怖くて声が出ない。誰か、助けて。私は怖くて震えた。目もつぶった。誰か来てほしい願いながら。そんな私を見て知らない人は、

「怖がってるの?可愛い。本気で惚れたわ(笑)好きです。付き合ってください」

 とか。永遠に繰り返している。本当にやめてほしい。そもそも、私には彼氏いるんで。無理なんですけど。気持ち悪い。話しかけんな。

 心の中で思うのは、簡単。でも、言葉に表せられない。こんな葛藤が続いてどれくらいたったのか。私には何十分にも感じたが、もしかしたら1分ぐらいのことかもしれない。聞きなれた声が降ってきた。

「おい、渡辺。俺の彼女怖がってんじゃん。わかんない?」

 彼の声には、怒気が含まれていた。

「は?お前本気か?こんなやつが彼女って」

 渡辺とかいう人、私に惚れたとか言ってたじゃん。意味不明。男って恐ろしい。でも、私、気遣わずに怒鳴ってよかったんじゃね?だって、なんかあんまり仲良くなさそうだし。

 こんなことを考えている間も二人の会話は続いていた。

「本気だけどなんか悪い?」

「悪いとはおもってねえ。でも、もっとスペック高い女子がお前の周りうろついてんじゃん」

「俺が惚れたのはこの人だから放っておいてくれないかな」

「いやだね。俺、お前のこと嫌いだから」

 うん、頭にきた。女子をなめすぎている。ここで黙っているのは性に合わない。一発入れたい。

 そう思ってからの私は、だれにも止められない。「あの、少しいいですか?」

 二人が不思議な顔をしてこちらを見る。それを私は肯定と受け取り、言葉を発した。

「さっきから黙って聞いてたら、ひどい言い草ですね。『お前のこと嫌いだから』女子のレベルをあなたが決めるんですか。女子のレベルをお前ごときが決めるな。いってること分かります?っていうか、さっき圭斗君が来るまで私に惚れたとか言ってましたよね?その言葉は嘘だったのですね。別に悲しくはありませんが、正直『は?』とは思いますよね。だって、自分の都合で態度を変えられるわけですから。それを嬉しいと思ってくれる女の子はまあ、滅多にいないと思いますよ。あと、圭斗君のことを悪く言うのはやめてください」

「ごめんなさい」

 渡辺さん、否、渡辺は謝罪の言葉を発した。しかし、この謝罪が誰に向けられたものかはわからなくて、問い詰めようとしたが、圭斗君に止められた。

「もういいよ。美優さん自身と俺のために言ってくれてありがとう」

「え?なんで私が私自身のために言ったことに圭斗君がお礼を言うの?」

「だって、俺ら付き合ってるじゃん。付き合ってるってことは、お互いがお互いのものでもあるんだよ」

「ありがとう」

 私がそういうと、圭斗君は屈託のない笑顔を私に向けた。

 その日の下校時、圭斗君に一緒に帰ろうと誘われたが、委員会があったので先に帰ってもらった。