少し歩いて、空き部屋が見つかった。誰も来ないことを確認して二人で入る。

 何となく、移動するときからの沈黙で、俺の嫌な予感が明細化している気がして落ち着かない。


 しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのは俺だった。

「美優さん、俺に何か用あったんですか?珍しいですよね」

「私は、圭斗君に聞きたいことがあってきた。どんな内容でもちゃんと聞いてくれる?」

 まさか。そこまで信用れていないのかな。どんどんネガティブな方向になってしまう自分を隠すために、少し声色を明るくする。

「もちろん。彼女の話を聞かないクズ彼氏になりたくはないんで」
「そっか。ありがとう」

 そうやって悲しそうな顔で笑う美優さんを見て心が痛くなる。『いつか、その原因を取り除ける手助けをしたい』なんて傲慢な考えが頭をちらつく。

「圭斗君はさ、私といて楽しい?」

 失礼だけど、愚問だ。好きな人と一緒にいれて楽しくないわけがない。それを素直に口にする。

「楽しいに決まってる。だって好きな人と一緒にいられるんだよ?嬉しくないわけがないじゃん」

 美優さんは表情を暗くして言った。多分、本人は無自覚だと思う。

「そっか。でもね、私はいつも思うんだ。それが『嘘』なんじゃないかって」
「え?」

 そんなに自分は信用されていないのかな。

「ごめんね。君があまりにも純粋すぎて疑問に思ってしまうんだ。君の言葉を信じていいのか。変な話だよね。純粋な子の言葉には、嘘偽りがないことが多くて、みんなから信頼される。なのに私は疑ってしまうんだ。純粋な子ほど、悪意を隠すのがうまい。圭斗君にそれがないと思っていても、どうしても考えてしまってね」

 本日幾度目かの沈黙が流れる。

 純粋な言葉には嘘がないはず。でも、それを信じることができないほど、彼女は心を傷つけられているのだろう。

 でも、ここまではっきり言われると、ありがたくてもやっぱり辛い。そんな自分の気持ちは押し殺してとりあえず、暗い顔をした彼女に声をかける。

 この判断が正しいのかはわからない。でも、何も言わないことはできなかった。

「美優さんに、そう思われていたのはやっぱ悲しいな。でも、何にも理由がなくてそんなこと言うわけでは無いでしょ?気になるけど、美優さんが言いたくなかったら聞かない。その代わり、これから俺の言葉に嘘がないことを信じられるようになってほしい、そう思うかな。自分でも思ったより動揺しててうまい言葉が出てこないや、ごめんね」

 気の利いた言葉が出ない。目の前で苦しんでる人がいるのに、自分のしてもらいたいことしか言えない。これこそクズ彼氏なのではないか。

 ダメだ、ずっと悪い方に考えてしまう。まずはこれをどうにかしたい。

 その方法を考えていると、美優さんの自身のなさそうな小さな小さな声が俺の耳朶を打つ。