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高校一年の六月、クラスメイトだった室生(むろう)さなぎが、誰にも、何も言わずに転校した。
クラスに親しい友達もいたのに、さなぎがどうして転校したか、どこへ行ったか、誰も知らなかった。
不思議に思って、クラスのみんなで理由を探した。
出てきたのは、上級生からのいじめだった。
うちの学校は、部活の数が多い方だ。
さなぎは部活の中で一人だけの一年生で、上級生から可愛がられるどころか、いじめの対象になっていた。
それを誰にも打ち明けられなくて、一人、学校からいなくなった。
……俺たちのクラスから、欠けてしまった。
「……言えないな」
一人で帰宅の途についていた俺は、考えていたことの総括のようにつぶやいた。
霞湖ちゃんには言えない。霞湖ちゃんのことも言えない。
それが、俺の答えだった。
「………」
幼稚園。
そうだ、李湖ちゃんの幼稚園をちょっと見ていこう。
霞湖ちゃんがいるかはわからないけど、なんだか気になる。
李湖ちゃんは、たぶんだけど霞湖ちゃんが迎えに来るのを待って園を出ているだろうから、霞湖ちゃんが早退した今日、この時間までいるわけはない――
「あ、おにいちゃん!」
「………」
いたよ。
「おにいちゃん、おねえちゃんまだですか?」
しかも、え、霞湖ちゃんまだ迎えに来てないの? 純粋な目で問われて、俺は笑顔を返した。けど。
「こ、こんにちは李湖ちゃん」
これはさすがの常時笑顔を貼り付けられる俺でも引きつるよ。
今、午後七時。
李湖ちゃんは先生らしき人と、園庭に出てきていて、前を通った俺を見つけてきたようだ。
「李湖ちゃんのお兄さんですか?」
先生が、安心したような顔で訊いてきた。
おにいさんって、まんま兄か? って意味だよな?
「いえ、李湖ちゃんのお姉さんの、霞湖ちゃんのクラスメイトです。……霞湖ちゃん、まだ迎えに来てないんですか?」
そう説明すると、先生は困った顔になった。