「今は、無理に近づこうとしないでおく」

その言葉に、俺もうなずく。

「そうだね。何かわかったら、みんなに話すよ」

「うん……わかった」

「委員長っていうとことか、優大なら頼りやすいと思うから、よろしくね?」

「押し付けちゃうみたいでごめん」

「いいよ、気にしないで」

みんなが謝ることなんてないのに。

俺も俺で、好きでそういう立場をやっているし。

――結局放課後まで、水束さんは誰とも会話をすることはなかった。

下校も、一人でいつの間にか帰ってしまっていた。

帰宅部の俺はみんなに挨拶しながら一人で学校を出る。

もういいかな、というあたりまで来ると、ポケットから携帯電話を取り出した。

仕事中だろうから、メッセージを送っておこう。気づいたら連絡があるだろう。

ひとつやることを終えて、家までの道のりを歩――こうかと思ったけど、ちょっと寄り道をする気になった。

この町の中央には大きな山があって、神成(かのう)神社という神社がある。

その参道にはいくつか昔ながらの店も並んでいて、そのひとつに寄ることにした。

「えーと、今度の日曜と……あ、再来週はちょっと遠いなー。寝る時間あるかな……」

なんて、頭の中で今後のスケジュールを確認しながら歩いていると、

「おねーちゃん! りこ、きょうおともだちできました!」

「そっかー、李湖は友達たくさん出来るねー」

と、にこやかな顔と声で、小さな女の子と手を繋いでいる水束さんと遭遇した。

……え、と……こういうのって声かけていいのかな? 学校とは別人じゃないかってくらいの表情で、まだ向こうは俺に気づいていないようだ。
 
このまままっすぐ歩けば、すれ違う。水束さんが俺に気づくかもしれない。どうする。どうしよう。

――三秒考えて、声をかけることにした。

「み
「あ! おねーちゃんと同じです! おねーちゃんのおともだちですかっ?」

予想外なことに、先に気づいたのは小さな女の子の方だった。

その声にびくっと肩を震わせた水束さんは、勢いよく俺の方を見てきた。

そして顔に浮かぶ、しまったという表情。

俺は再び考えた。今度は一秒くらい。